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WealthPark研究所所長 加藤航介

プロップテック(PropTech)が切り開く新しい未来(対談:後編)【WealthPark研究所】

株式会社デジタルベースキャピタル 代表パートナー 桜井駿(さくらい しゅん):みずほ証券株式会社、株式会社NTTデータ経営研究所を経て、株式会社デジタルベースキャピタルを創業。日本初となるPropTech特化型ベンチャーキャピタルを運営し、規制産業領域であるPropTech、Fintechのスタートアップ投資・育成、大手企業向けのデジタル戦略、DXに関するコンサルティングを行う。不動産/建設領域のスタートアップコミュニティ「PropTech JAPAN」の設立、一般社団法人Fintech協会の事務局長、経済産業省 新公共サービス検討会 委員を歴任。主な著書に、「決定版FinTech」(共著、東洋経済新報社)、「知識ゼロからのフィンテック入門」(幻冬舎)、「超図解ブロックチェーン入門」(日本能率協会マネジメントセンター)、「100兆円の巨大市場、激変 プロップテックの衝撃」(日経BP)がある。https://www.digitalbase.co.jp/

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WealthPark研究所 所長 加藤航介(かとう こうすけ)‐ プレジデント/インベストメント・エバンジェリスト:「すべての人に投資の新しい扉をひらく」ための調査・研究・情報発信を行っている。プロフィールはこちら。

(対談の中編はこちら

今回は「プロップテック(PropTech)が切り開く新しい未来」をテーマに、株式会社デジタルベースキャピタル 代表パートナー 桜井駿氏とWealthPark研究所 加藤航介が語ります。(後編)

モノや技術や仕組みに稼いでもらえる投資は、幸福度を上げるための良い手段

加藤: SDGsの取り組みが大きなムーブメントになってきていることは喜ばしいことですよね。WealthParkでも、社会全体を豊かにしていくという目標を、真面目に探求しています。不動産投資というのは、社会におけるオーナーの立場に立つための一つの手段とも言えます。例え、自分でビジネスを始めて起業をしなかったとしても、個人がオーナーのマインド、つまり社会的により自立した立場に近づくことは大切だと思います。勤め人の方がオーナーの立場に立つことは、社会を見る解像度を大きく高めますし、個々人の資産形成にもなるわけです。WealthParkは、そういうことが簡単にできる社会、皆がストレスなく社会のオーナーになることができる社会に、一歩でも近づけたいと考えています。そのためには、資産や投資に関わる情報の見える化が重要です。我々のアプリでは、利回りや収支や、過去の修繕の記録などが即座に分かりますし、機能もどんどん拡張させているところです。

トマ・ピケティが『21世紀の資本』で述べている通り、地主や株主などのオーナーの資産成長率の優位性は確実に存在すると思います。そして、資本主義の先進国がより豊かになっていくためには、一般の方でも所得のうちの2〜3割はオーナー収入から得るなど、資産家として自立する様な方向に進んでいくべきでしょう。働くだけではなく、オーナーとしての立場で社会に関わることは、先進国の社会では必ず必要になると思います。不動産投資の社会的役割は、そうした個人と社会の接点を繋ぐ部分にあると見ています。

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桜井: 賛同しますね。個人の人生が豊かになるためには、限られた時間の中で、できれば効率良くお金を稼いで、家族や友人と過ごしたり、趣味に時間を充てることが大切ですよね。お金と時間を自分の本当に好きなことに使えた方が、一般的には幸福度が高いと言われていて、投資はそのためには必要な手段と思います。情報が見える化されれば、個人のオーナー化がどんどん進んでいく、という加藤さんの主張もその通りだと思います。反対に、投資が民主化されていかないボトルネックの一つは、個人は投資に必要な情報を得るために努力しなければならないこと、つまり投資する側と販売する側の間に、明らかに情報の非対称性があることです。投資には、必要な情報が常に開示されていて、必要な時に確認したり比較できる状態が必須。一般の個人はプロの投資家ではないのだから、投資が生活の一部として意識されている様な状態を目指すことが理想的です。お世辞抜きにして、御社はスマホ上のアプリを通じて、そうした世の中をつくろうとしているんだと思います。

東証の老舗の上場企業の経営者の方々から、「家計簿のアプリやクラウド会計を開発しているスタートアップ企業の時価総額が自社より高く、理解に苦しむ」と相談を受けたことがあります。お気持ちは非常にわかるのですが、そうしたスタートアップって単にアプリをつくっているわけではなく、個人のお金や投資の在り方を根底から再定義しようとしていて、そうした大きなミッションや未来に対する期待値が、時価総額に反映されているんですよね。お金や投資の管理は、あらゆる産業のサービスを消費する起点になっていくので、それを民主化して見える化していくアプリやサービスが高く評価されていることは、至極当然のことだと言えます。

加藤:同感です。経済とは、個人や企業が未来に向かって消費や投資をする活動そのものです。それらを便利なアプリで見える化したり管理できる様にしていくことは、経済活動の根幹を握るビジネスになると思います。

日本における不動産IDへの取り組み

加藤: 最後に、最近発表された国土交通省による不動産IDのルール整備についても伺わせてください。土地や建物の情報を共通IDで一元的に把握できる仕組みづくりは、プロップテック業界の将来を占う上で重要なトピックになると思いますが、不動産IDの意義についてどの様にお考えでしょうか。

桜井: オープンアクセスや情報の非対称性の解決に向けて、不動産を正確に識別するためのIDは重要です。不動産って他に一つとして同じものがないにも関わらず、これまでは識別IDが振られておらず、関連するデータも重複管理されているという問題を抱えています。私は、ルールやインフラの整備というのは官が主導しても民が主導しても良いと基本的には思っていますが、不動産IDは社会の基礎の基礎になるデータであり、こういう性格のものについて国土交通省という官が主導していく意義は大きいと見ています。

加藤: 桜井さんは有識者として国土交通省の不動産ID付与の検討会にも参加されていらっしゃるということですが、不動産IDでは具体的にどの様な情報を管理していくことになるのでしょうか。

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桜井: まずは取引価格や賃貸物件であれば賃料など、権利に付随する情報ですね。それから、修繕の履歴や設備に関する情報もデータベースにします。例えば、地震発生時に大型ビルの屋根が落ちれば明らかに人命に影響を及ぼすので、耐震天井といった防災設備の有無は情報として蓄積しておいた方が良いですよね。建物は命を守り、労働環境や居住環境を提供する重要なものなのに、これまでは、それらの情報がきちんと管理されていなかったんですよね。情報を閉まっておくタンスも、引き出しもない状態だったので、それをつくろうとしているのが今の段階です。

フィンテック業界の成長は、お金にまつわるデータが既にデジタル化されていたことに起因します。お金がデータで取引・管理されていたからこそ、その上に家計簿やクラウド会計や取引アプリなどの、新しいデジタルサービスが産まれてきたわけです。同じ文脈で、不動産業界においては、土地・建物が固有のIDで識別でき、不随する情報がきちんとストックされ、その物件の取引や賃貸や投資を行う人、すべてが見れる様にオープンアクセスな状態にしていくことが大事です。それが情報の非対称性の解消にも繋がり、プロップテックの発展にとっても間違いなく重要な土台になると思います。

加藤: 2021年度中に検討会でルールを決定すると報道されていますが、実際のタイムスパンとしてはどの様に進んでいくのでしょうか。

桜井: 個人的な感覚ですが、国の施策にかかる年数はざっくり5年と見ています。今は検討会を実施している1年目で、ここで実際に決定されると、正式な協議会や推進の母体をつくります。そこから3〜4年で詳細な設計を行います。この様に、大規模産業のルールをつくるとなると、早くて3年、普通は5年ですね。民間やスタートアップからの働きかけで、スピードを早めることもできるかもしれません。

加藤: 諸外国では不動産IDはどの様に整備されているのでしょうか。

桜井: 不動産IDを整備している国は多く、ヨーロッパにもアメリカにもあります。国土交通省も海外の制度を細かくリサーチして、6、7年前にレポートも出しているのですが、ヨーロッパやアメリカでは不動産IDに路線や地図、税金の滞納に関する情報も紐づいています。

なお、この識別IDをつくっていく動きは、デジタル庁の取り組みである「ベース・レジストリ」の動きと、たまたま時を同じくして合流しており、両方とも縦割りをやめて横串でデータを連携させていこうというコンセプトで動いています。デジタル庁が進めようとしているのは、国のあらゆる情報を一元管理して、国から見たユーザーである国民の生活が良くなる様に、そうしたデータを国民に還元していくことですが、その文脈に不動産IDも入っているということです。

関係省庁の方々は本気で規制改革に邁進していて、取り組みのスピードは今後より加速していくと感じています。「規制改革」は実状を適切に捉えている言葉で、規制は緩和するだけではなく、創造することが良い場合もありますよね。仮想通貨もそうですが、規制をつくったから産業が成立するケースもあります。ですので、緩和するも創造するもすべて含めて「改革」と表現するのが正しいと思います。「規制改革」は日本の最重要テーマで、30〜40代の若手政治家が必死に取り組んでくれています。一般の人からすると、デジタル庁ってイメージが掴みづらいかもしれませんが、本質的な価値は縦割りの撤廃だと言えばわかりやすいのかなと。利権が絡んでいる業界の改革は反発も相当ですが、それでも国にとって何十年かに一度のラストチャンスだという覚悟で、真剣に問題に切り込まれている意気込みを感じますね。

加藤: 不動産IDの整備など、官庁での規制改革に向けたスピード感が早いというのは、勇気づけられるニュースですね。これは国全体のバリューアップに影響しますので極めて大切な取り組みで、早期に実現していただきたいと思います。それでは、本日は様々なトピックをお話させていただき、ありがとうございました。

桜井: ありがとうございました。

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