お役立ち・トレンド
投資用の実物不動産の広告を見ると「利回り20%!」など、この低金利時代に驚くような数字が踊っています。こうした実物不動産の「利回り」とは具体的にどのように割り出された数字なのか、投資ライターの山下耕太郎さんが解説します。
実物不動産の利回りがどの程度になるか気になる人も多いでしょう。ただ、広告などで目にする利回りは「表面利回り」で、管理費や経費などを考慮していません。実物不動産投資では、経費などを差し引いた「実質利回り」も考慮する必要があります。
この記事では、不動産投資における利回りの考え方について詳しく解説します。
実物不動産投資の利益には毎月の賃料と売却益の2つがあり、毎月の賃料を「インカムゲイン」、売却益を「キャピタルゲイン」といいます。
実物不動産投資の強みは、毎月決まった額の賃料が入る「インカムゲイン」です。部屋を借りてくれる人がいる限り、安定した定期収入が入るからです。
インカムゲイン狙いで実物不動産投資をするときは、「利回り」をチェックします。利回りとは、投資資金に対して得られた利益を、1年あたりの平均に直した割合のことです。
ただ、利回りには「表面利回り」と「実質利回り」の2種類があります。広告などで「利回り10%」など、低金利が続く時代に信じられないような数字が書かれていることがありますが、これは「表面利回り」です。
表面利回りの計算式は以下の通りです。
表面利回り=(年間家賃÷不動産価格)× 100
実物不動産には管理費などの経費がかかるので、経費を引いた実質利回りも考慮する必要があります。実質利回りの計算式は次の通りです。
実質利回り = {(年間家賃 - 管理費などの経費)÷ 不動産価格 } × 100
実物不動産投資では、キャッシュフローを考えます。キャッシュフローとは、直訳すると「お金の流れ」。つまり、年間家賃収入からローン返済や経費を引いた「手残りのお金」のことです。キャッシュフローの計算式は、以下の通りです。
キャッシュフロー=年間家賃収入-年間ローン返済-運営経費等-空室損失
実物不動産投資は、不動産の生み出す収益、つまり「キャッシュフロー」を期待して行われるものです。いいかえれば、その不動産の投資価値は、その不動産がどの程度のキャッシュフローを生みだすかにかかっています。
キャッシュフローを生じない不動産は投資対象になりません。たとえば、都心一等地の新築1棟マンションは、物件自体が非常に高額です。一般的に、資産性は高いもののキャッシュフローは出にくい物件ということになります。
一方、地方都市のマンションや築古のマンションなどは、資産性は低いものの割安で買えることが多く、キャッシュフローが出やすい物件です。
キャップレートとは、実物不動産投資において投資物件の収益性を評価する際の大切な指標です。キャップレートは、対象不動産が生み出すNOI(Net Operating Income)を不動産価格で割って算出します。
NOIは、保有する実物不動産の賃料収入から固定資産税や管理費など、実際にかかる経費を差し引いた純粋な収益額(純収益)のことです。減価償却や銀行への支払利息、税金などは差し引かないので、不動産が生み出す収益力を測る指標として用いられるのです。
キャップレートの計算式は、以下の通りです。
キャップレート = NOI(純収益)÷ 不動産価格
価格が同じ不動産でも、不動産のNOI(純収益)が大きいほどキャップレートが高くなります。
また、以下のようにキャップレートで対象不動産の価格を求めることができます。
不動産価格 = NOI ÷ キャップレート
これら2つの計算式を応用して、キャップレートは以下のようにさまざまな名称・目的で使われます。
還元利回りは、収益価格の算定に用いられます。収益価格と還元利回りの関係式は以下の通りです。
収益価格 = 初年度予算(もしくは標準化された)純収益 ÷ 還元利回り
土地の還元利回りについては、地域によって地価公示で表されています。
投資価値(投資家の購入希望価格)の査定に用いられます。期待利回りの関係式は、以下の通りです。
投資価値 = 初年度予想純収益 ÷ 期待利回り
一般財団法人「日本不動産研究所」は、不動産投資家調査で期待利回りを公表しています。2019年10月の結果は、以下のようになりました。
東京(丸の内、大手町) | 3.5% |
横浜 | 4.8% |
名古屋 | 4.9% |
大阪(梅田) | 4.5% |
福岡 | 4.9% |
東京(丸の内、大手町)の期待利回りの推移は、以下の通りです。
ワンルームタイプの期待利回りは、以下の通りです。
東京(城南) | 4.2% |
横浜 | 5.0% |
名古屋 | 5.0% |
大阪 | 4.9% |
福岡 | 5.1% |
東京の城南地区(港区、品川区、目黒区、大田区)は4.2%と前回(2019年4月)よりも0.1%低下し、過去最低を更新しました。
取引利回りは、マーケット相場の把握に使われます。取引利回りと取引価格の関係式は以下の通りです。
取引利回り = 初年度予想(または実績)純収益 ÷ 市場で観察される取引価格
運用利回りは、運用成績の把握に用います。運用利回りと取得価格の関係式は、以下の通りです。
運用利回り = 実績純収益 ÷ 取引価格(または簿価)
実物不動産投資をする上で、ROI(Return on Investment)も欠かせません。日本語では、「投資利益率」や「投資収益率」と訳されます。ROIの数値が高いほど利益率が高いことになります。
ROIは株式投資やマーケティングなどの企業分析でも利用されます。それらの場合は、借入金を含めた総投資額で計算しますが、実物不動産投資では借入金を含めず、自己資本金額で計算します。
つまり、ROIを活用すると、自己資金でどの程度の利益率になっているのかがわかるのです。ROIの計算式は以下の通りです。
ROI = 年間収益(年間の賃料収入-ローン返済額-経費)÷ 最初の自己資金 ✕ 100
実物不動産を購入するとき、自己資金を少なくしてローンを多く組めればROIは高くなりますが、ローンを使わずに全額自己資金で購入した場合のROIは低くなります。
ROIが高いほど資金効率は良くなりますが、あまり高くしすぎるのも問題です。ROIを高めるために借入金を増やしすぎると、空室がでたり金利が上昇したりした時にローンの返済が滞ってしまう恐れがあるからです。家賃収入や金利変動などのリスクを考慮しないといけません。
実物不動産投資の期待利回りは、主要政令指定都市のオフィスで3~5%、ワンルームで4~5%でした。J-REITや不動産クラウドファンディングなど、その他の不動産投資の利回りはどのぐらいでしょうか。
J-REITの平均予想分配金利回りは、2019年10月時点で3.42%。ここ5年間は3~4%での推移となっています。
不動産クラウドファンディングの事業者によって異なりますが、たとえばクラウドリアルティの案件では4.5~10%の利回りとなっています。
J-REITと不動産クラウドファンディングについての詳細は、以下の記事を参考にしてください。
不動産版投資信託「J-REIT」とは?メリット・デメリットを解説今回は、実物不動産投資における利回りについて解説しました。実物不動産投資では、表面利回りだけでなく、実質利回りも計算する必要があります。
実質利回りと同じような計算式でキャップレートも求めることができます。ただ実質利回りは、実際に不動産を運営して家賃収入や諸経費がどの程度あったかという結果から求めるのに対し、キャップレートは不動産を購入する前に、物件が生み出す収益率を把握する指標です。
実物不動産投資の結果が実質利回り、実物不動産投資で得られそうな収益性を求めるのがキャップレートなのです。
また、自己資本でどの程度の利回りがあるのかは、ROIをチェックします。ROIは高い方がいいものの、借入金を増やしすぎると返済が滞るリスクがあるので注意しましょう。
金融・投資ライター
山下耕太郎
一橋大学経済学部卒業後、証券会社でマーケットアナリスト・先物ディーラーを経て個人投資家・金融ライターに転身。投資歴20年以上。現在は現物株・先物・FX・CFDなど幅広い商品で運用を行う。ツイッター@yanta2011
【投資初心者必見】NISAや積立投資といった、まず知っておくべき情報配信中!
その他の記事はこちらから