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クラウドリアルティの提供する「不動産クラウドファンディング」は、しばしば「J-REIT(ジェイ・リート)」と比較されます。では、J-REITとはどのような金融商品なのでしょうか。個人投資家で金融・投資ライターとして各種金融系メディアへの寄稿もしている山下耕太郎さんにご解説いただきました。
安定的な家賃収入が得られる大家さんに憧れる人も多いと思います。しかし、実物不動産を購入して投資を始めるには数千万円~数億円の資金が必要になります。
一方、J-REITであれば、多くの投資家から資金を集めて不動産を購入するので、1人あたり10万円程度の少額から不動産投資が可能です。
今回は、J-REITの特徴と銘柄選びのポイントについて解説します。
J-REITとは、「Japan Real Estate Investment Trust」の略で、日本のREITということです。大勢の投資家から集めた資金で複数の不動産を取得し、そこから生じる売却益や賃料を投資家に分配する不動産版の投資信託です。
投資家はJ-REITを通じて間接的に不動産のオーナーになり、不動産のプロによる運用の成果を得ることができます。
J-REITは、「投資信託及び投資法人に関する法律」の改正(2000年11月)により、2001年9月に市場が創設されました。当時は2銘柄が上場し、時価総額2,500億円でスタートしましたが、2019年10月時点では63銘柄が上場し、時価総額は17.05兆円まで成長しています。
J-REITの仕組みは以下の通りです。
J-REITには「投資法人(会社型投資信託)」と「契約型投資信託」の2種類がありますが、現在はすべて「投資法人」のタイプになります。
不動産への投資・運用を目的とした投資法人は、投資家に「投資証券」を発行します。
投資法人は投資家からの出資金をもとに不動産を購入・保有します。この不動産が生み出す利益を投資家に分配していくのです。不動産の利益には賃料(インカムゲイン)と売却益(キャピタルゲイン)がありますが、J-REITのメインは賃料で、例外はありますが売却益にはあまり依存していません。
また、実際の不動産の運用などは資産運用会社などが行います。投資家は東京証券取引所を通じて、いつでも売買が可能です。
それでは、J-REITのメリットを確認していきましょう。
実物不動産投資は、一般的に数千万円~数億円もの資金が必要になりますが、J-REITは多くの投資家から資金を集めるので、少額からの投資が可能です。なかには10万円以下で投資できる銘柄もあります。
そして、J-REITの運用は不動産のプロが行うので手間がかからず、さまざまなアセットタイプの不動産に投資できます。複数の物件に投資しているので、分散効果によってリスクを軽減できるのです。
J-REITは複数の不動産に投資し、そこから生じる利益を分配します。分配金の原資は賃貸事業(賃貸料収入)が主体のため、比較的安定しています。
さらに、利益の90%超を配当するなどの条件を満たすことで法人税が実質的にかからないことから、株式などに比べて高い配当が期待できます。
2019年10月時点のJ-REIT全体の分配金平均利回りは3.42%。株式の平均配当利回り2.36%、10年国債利回りの-0.15%と比べても高くなっています。
過去10年間の分配金の利回り推移は以下の通りです。
実物不動産と大きく異なるJ-REITの特徴は、流動性の高さです。流動性とは買いたい時に買える、売りたい時に売れることで、換金しやすいかどうかということです。
実物不動産の場合、買い手と売り手が売買交渉をしなければいけませんが、J-REITは東京証券取引所に上場しているので、株式と同じようにいつでも売買できます。
J-REITは通常の株式取引所と同じルールが適用され、指値(値段を指定する)注文や成行(値段を指定しない)注文も使えます。全国の証券会社の本支店やインターネットを通じて取引が可能です。
J-REITは安定的な収益が期待できますが、預貯金のように元本が保証された金融商品ではありません。以下のようなリスクに注意する必要があります。
J-REITは投資口価格の価格変動リスクがあります。投資口価格とは、株式の「株価」に相当するものです。投資口価格は、不動産の売買市場や賃貸市場のほか、金利や証券市場の状況によって変動します。
購入した値段よりも投資口価格が下落した場合、損失を抱えることになります。
高い利回りが期待できるJ-REITの分配金ですが、その有無や金額が保証されているわけではありません。J-REITは複数の物件に分散投資しているので賃料収入は安定していますが、テナントの撤退や賃料の未払いなどによって賃料が得られなくなると分配金が減る可能性があることは認識しておく必要があります。
J-REITの投資法人が倒産するなどの事態が発生した場合は上場廃止になる恐れがあります。上場廃止になると、東京証券取引所で売買できなくなります。
J-REITは、一般的な不動産会社に比べて保守的な財務戦略が多いのですが、2008年のリーマンショックで破綻した例もあります。
また、制度変更がJ-REITの分配金や投資口価格に影響が及ぶ恐れもあります。たとえば、不動産に関する法制度が変更されることによってコストが発生し、それにより投資口価格や分配金に影響がでる可能性があるのです。
J-REITの代表的なアセットタイプは「オフィス」「商業施設」「物流施設」「住宅」「ホテル」「ヘルスケア」の6つです。
J-REITの中心的なアセットタイプ。オフィスは物件数が多く、もっとも投資機会が多いからです。
オフィスREIT選びのポイントは、平均賃料と空室率です。J-REIT保有不動産の所在地別比率は以下のようになっています。
オフィスビル仲介大手の三鬼商事が発表した、都心5区(千代田・中央・港・新宿・渋谷)の9月の空室率は1.64%となり、過去最低水準となりました。
同じく都心5区の平均賃料は3.3平方メートル当たり2万1855円となり、69カ月上昇が続いています。旺盛な需要が空室率の低下と賃料を押し上げていることがわかります。
商業施設REITは都市型の商業施設が多く、景気感度が高いという特徴があります。商業施設REITの購入を検討する時は、中途解約条項があるかどうかを確認します。
中途解約条項があると、契約満了せずに解約されてしまう可能性があるからです。その場合、保有しているJ-REITの価格や分配金に悪影響がおよぶ恐れがあります。また、賃料の更新頻度も確認するようにしましょう。
中途解約条項なしで、契約期間が10~15年という物件が理想です。
物流施設に投資するREITは、分配金が安定しているのが特徴です。物流施設とは、私達の生活に欠かせない日用品や食料品・衣類・家電など国内外の企業の工場が出荷した商品を仕分けして、店舗や消費者に届けるための施設です。
物流施設は賃料が安定しており、一定の需要があります。長期固定で賃貸契約を結ぶことが多く、景気が悪化しても受ける影響は少なくなるからです。
住宅REITは分配金が安定しています。景気が悪くなっても急に家賃が下がることはないからです。景気に左右されないのが住宅REITの特徴といえます。
ただし、景気が上向いてもオフィス系のようにすぐに賃料を上げられないので、収益面の恩恵が少ないというデメリットもあります。
ホテルは景気に影響を受けますが、景気回復局面では高い成長と利回りが期待できます。また、インバウンド(外国人訪日観光客)の影響も大きく受けます。2020年の東京オリンピックまでは、ホテル市況は堅いと考えられています。
ヘルスケアREITとは、主に有料老人ホームやサービス付き高齢者向け病院・住宅などのヘルスケア施設に投資するREITです。
高齢化の進む日本では、ほかの物件よりも需要が高まることが期待できます。しかし、現在のヘルスケアREITはシニア住宅が多く、新規物件の取得が難しいという面があります。
シニア住宅は介護職員不足で不動産市場に流通する物件が少なく、高い価格で取引されているので投資利回りが低くなる傾向にあるからです。
J-REITには、これらのアセットタイプのうち1つだけに投資する「単一用途特化型」と、2つのアセットタイプに投資する「複合型」、3つ以上のアセットタイプに投資する「総合型」に分けられます。
なるべくリスクを避けたい人や、J-REITでの投資が初めての人は「総合型」から始めるといいでしょう。特定のアセットタイプの要因による変動リスクを抑えられるからです。
J-REITの全体の値動きを表す東証REIT指数と、TOPIX(東証株価指数)の過去10年間の推移は以下の通りです。
2019年時点の東証REIT指数は2245.01ポイントと、リーマンショック(2008年)前の2007年5月の2612.98ポイントに次ぐ水準となっています。低金利が続き、個人投資家だけでなく運用難に悩む機関投資家がJ-REITを積極的に購入しているからです。
しかし、分配金利回りは2019年10月時点で3.42%。ここ10年の最低利回りは3.02%なので、これ以上の東証REIT指数の上昇(利回り低下)には注意が必要です。
今回は、J-REITの概要、メリット・デメリット、銘柄選びのポイントについて解説しました。株式などと比べても高い利回りが狙えるJ-REITは、個人投資家だけでなく機関投資家からも注目を集めています。
しかし、近年投資口価格が上昇して高値警戒感もあります。J-REITに集中投資するのではなく、株や債券、投資型の不動産クラウドファンディングなど他の金融商品にも分散投資し、リスクを抑えた運用を心がける必要があります。
金融・投資ライター
山下耕太郎
一橋大学経済学部卒業後、証券会社でマーケットアナリスト・先物ディーラーを経て個人投資家・金融ライターに転身。投資歴20年以上。現在は現物株・先物・FX・CFDなど幅広い商品で運用を行う。ツイッター@yanta2011
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