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不動産クラウドファンディングのプラットフォームであるクラウドリアルティでは、自社サービスはもちろんのこと、様々な投資情報について紹介しています。今回のテーマは、実物不動産投資(以下、不動産投資)。個人が不動産投資を行う際に頼りになるのが「不動産投資ローン」です。とはいえ、誰でも借りられるわけではありませんし、リスクもあります。そこで今回は、住宅ローンアドバイザーの資格を持つ不動産ライター・亀梨奈美さんにご解説いただきました。
「老後資金が不足する」「年金がしっかりもらえるかわからない」などの不安から、近年、投資に興味を持つ方が増えています。中でも不動産投資は、相続対策や税金対策にもなり、長期にわたって安定した収入を見込むことも可能とあって人気があります。さらに、融資を受ければ少額の資金で投資を始められる点も、不動産投資に注目が集まる理由でしょう。
ただ不動産投資ローンは、マイホームを購入するときの住宅ローンより審査が厳しく、金利も高いということはご存じですか?また昨今では、不正融資問題などの影響を受け、不動産投資ローンの審査が通りにくくなっています。
不動産投資ローンも住宅ローンも、「不動産の購入資金への融資」という点においては変わりありません。しかし、両者には様々な違いがあります。
後述で両者の違いの詳細について解説しますが、総じて、不動産投資ローンより住宅ローンの方が条件は良い傾向にあります。ただし、投資目的で住宅ローンを組むことはできません。フラット35の資金使途条件を見てみますと、
とあります。その他の金融機関の住宅ローンについても、「本人または家族が住む」との要件が定められています。
昨年、フラット35の悪用が多数発覚しました。投資目的の住宅ローン利用は、投資家個人の意向でなしえるものではありません。つまり、仲介業者がグルになって偽って申し込んだということ。「スルガ問題」も記憶に新しいところですが、残念ながら悪質な業者は存在します。うまい口車に乗せられることなく、投資物件への融資は不動産投資用ローンを利用する必要があるのです。
それでは、不動産投資ローンと住宅ローンと違いについて見ていきましょう。
投資物件とマイホームの大きな違いは、収益を生むか生まないか。不動産投資ローンの原資(返済のための元手となる資金)は、基本的に「家賃」なので、「物件の収益性」が主な審査基準となります。では、不動産投資ローンでは、債務者の収入状況等が審査されないかというとそんなことはありません。やはり収益が落ちたときには、個人の収入が原資の一部となるので、勤務先や勤続年数、年収は審査の対象となります。とくに、いわゆる「サラリーマン大家さん」であったり不動産投資初心者の方は、個人の属性も厳正に審査されると思っておきましょう。
一方、住宅ローンは、完全に「個人の収入」が原資です。そのため、個人の収入や信用情報などの属性のみが審査対象となります。
不動産投資ローンは、「年収の10倍まで借りられる」といわれることもありますが、実際のところはその人の信用性と物件の担保評価(金融機関が考える担保としての価値)によります。また、他に所有している不動産の状況や不動産仲介会社、借り入れ先によっても限度額は異なるでしょう。
住宅ローンはというと、借り入れ限度額は、ほぼ年収に比例するといえます。多くの住宅ローンは、年収に占める借り入れの年間返済額の割合である「返済負担率」が定められています。たとえば、フラット35の返済負担率の上限は、以下の通りです。
年収 | 400万円未満 | 400万円以上 |
---|---|---|
基準 | 30% | 35% |
フラット35では、年収400万円の人は1年あたりの返済額が「400万円×35%=140万円」を超える借り入れができないということです。カーローンや教育ローンなど他の借り入れがある場合には、全ての借り入れを含めて返済負担率を超えてはいけないことになっています。
金利は、「固定」なのか「変動」なのか、また商品によっても異なりますが、不動産投資ローンは住宅ローンより高く設定されています。金利の違いの理由は、金融機関が考える「滞納リスク」の差です。
住宅ローンは、個人の収入のみが原資であり、滞納すれば債務者は住む場所を失ってしまうため滞納リスクは低いと判断されます。一方、不動産投資ローンは、事業次第で原資となる収益が大幅に増減する可能性があるので、住宅ローンと比較して滞納リスクは高いと判断されるのです。
借り入れ期間の考え方についても、不動産投資ローンと住宅ローンには大きな違いがあります。
まず、不動産投資ローンの借り入れ可能期間は、物件の構造と築年数によって変わってくるのが一般的です。不動産投資ローンが主に審査するのは、物件の価値でしたよね。物件の価値は、経年につれて損なわれていくのが基本であるため、金融機関は物件の価値が残っている間に完済してもらいたいと考えます。不動産は構造ごとに「法定耐用年数」が定められていますが、この耐用年数が、借り入れ可能期間に大きく影響します。
木造 | 22年 |
軽量鉄鋼 | 27年 |
重量鉄骨 | 34年 |
鉄筋コンクリート | 47年 |
必ずしも『耐用年数=借り入れ可能期間』となるわけではありませんが、不動産投資ローンは、耐用年数が借り入れ可能期間の上限と設定されることが多いと認識しておきましょう。中には、耐用年数を超えて融資を出す金融機関もありますが、その場合は金利が高くなりがちです。
一方、住宅ローンの借り入れ可能期間は、最長35年とし、債務者の年齢にも規定があるケースが多いものです。多くの住宅ローン商品は、「借り入れ時の年齢70歳まで」「完済時の年齢80歳まで」などの年齢制限があります。
不動産投資ローンと住宅ローン。「相互に与える影響はあるのか?」と心配される方が多くいらっしゃいます。両者は審査基準に違いがあるものの、いずれもその他の借り入れ状況については必ず審査されます。そのため、「不動産投資ローンを借り入れていることで住宅ローンが借りにくくなる」「住宅ローンを組んでいると不動産投資ローンが借りにくくなる」という事実はあると考えられます。とはいえ、不動産投資ローンと住宅ローンが両立できないというわけではありません。
不動産投資ローンは、物件の価値を重点的に審査されますが、個人の収入や信用が見られないわけではありません。住宅ローンを借り入れているということは、その分、収入が低いとみなされることは否めません。住宅ローンを借り入れていても不動産投資ローンを組むことは可能ですが、借り入れ限度額は下がる可能性があると認識しておきましょう。
不動産投資ローンと比較して審査が緩い傾向にある住宅ローンですが、その審査基準は非常にシビアです。
私事ですが、以前、マンションを売却したとき、買主さんのローン審査がなかなか通らなかった経験があります。売り出し当初から購入の意向を伝えていただいていたものの、結局ローン審査が通って売買契約となったのは2か月ほど経った頃でした。買主さんは、年収は十分にあったようですが、他の借り入れがあったとのこと。売主である私に詳細が伝わることはありませんが、複数の金融機関に審査を打診されたようです。
【参考】「自宅投資」は必ずしも資産形成のためのものではなく、人生をより良くするためのものと考えれば上手くいく。
住宅ローン審査では、その他の借り入れはもちろん、過去に残高不足でクレジットカードの引き落としできなかったようなことでさえマイナスに働くことがあります。不動産投資は家賃収入が原資であるとはいえ、やはり借り入れであることに変わりはありません。残債や収支状況にもよりますが、不動産投資ローンを借り入れていることで住宅ローンの借り入れ限度額や審査の合否に影響を与えることは十分考えられます。
実は、近年、不動産投資ローンの審査が通りにくくなっています。その理由の1つは、2018年ころから世間を賑わせている不正融資問題にあります。
スルガ銀行による不正融資が発覚したのは、「かぼちゃの馬車」というシェアハウスのオーナーに対し、サブリース業者である株式会社スマートデイズからの支払いが滞ったことがきっかけです。結果としてスマートデイズは経営破綻し、かぼちゃの馬車のオーナーには自己破産してしまう人まで出てきました。かぼちゃの馬車の事業は、賃料設定などに無理があったことに問題がありますが、その裏にスルガ銀行による不正融資があったことが発覚したのです。不正融資の手口は、賃貸借契約書やレントロール、源泉徴収票や通帳の改ざん。つまり、物件の収益とともに、融資を受ける個人の収入や資産を多く見せて、不正に融資していたということです。
かぼちゃの馬車の一件まで、「不動産投資といえばスルガ銀行」というほどに、不動産投資への融資に積極的だったスルガ銀行。金利は比較的高めでしたが、「審査基準が緩い」「個人でも通りやすい」というスルガ銀行の不動産投資ローンの存在は、個人不動産投資家が増加する一因になったともいえるでしょう。
一連の騒動を受け、金融庁は2018年10月から2019年4月までの間、スルガ銀行に対し新規の投資用不動産融資を停止する行政処分を行いました。人事や内部体制など、いまだに紙面やメディアを賑わすスルガ銀行。2025年までの中期経営計画によると、2022年度時点の新規融資額は、ピーク時の2015年度融資実績4000億円強の3割に満たない1200億円を見込んでいます。
実は、不正融資問題が明るみにでる前から、個人向けアパートローンなどの引き締めは始まっていました。2015年に相続税法が改正されたことをきっかけに、相続対策としてアパート経営を始める高齢者が増え、2016年にマイナス金利政策が採用されてからは不動産投資の敷居が下がり、サラリーマンやOLなどの若年層までもが不動産投資を始めます。しかし、今の日本は空き家問題が深刻化しており、人口が減少し続けている状況。賃貸住宅の過剰供給が続くことを危惧した日銀や金融庁は、2017年からアパートローンに対する引き締めを行いました。そして2018年に発覚した不正融資問題によって、金融機関側の融資の積極性を後退させたことにより、不動産投資ローンの「借りにくさ」が決定的になったのです。
金融庁は2019年3月、金融機関を対象とした投資用不動産向け融資に関するアンケートの結果を公表しました。発表資料では、不動産投資ローンの融資に際し、金融機関に「売買価格の妥当性の検証」や「顧客へのリスク説明」などを求めています。さらに、必要に応じて、金融機関への立入検査および深度あるモニタリングを実施するとも明言。また不動産投資家が留意すべき事項として次のことを挙げています。
調査結果のみならず、こうした「注意喚起」とも取れることを金融庁が発表するのは少々異例なことだといえるでしょう。不正融資問題の発覚以降、不動産投資ローンの審査は確実に厳しくなっています。それはすなわち、不動産投資物件が売りにくくもなっているということ。さらに、今後の金融緩和政策の動向によって金利水準が上がっていけば、不動産投資ローンのみならず住宅ローンの借り入れに慎重になる消費者が出てくることは避けられず、不動産市場全体の動きが鈍くなることも予想されます。
不動産投資ローンと住宅ローンは、借りる目的も審査基準も金利も違います。また、住宅ローン減税のような控除制度もありません。
不動産投資は、元手が少なくても高額な資産が手に入り、運用できる、数少ない投資です。それは魅力の1つといえるかもしれませんが、借り入れをしておこなう投資には、一定のリスクがあることを認識しておきましょう。
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不動産ライター
亀梨奈美
大手不動産会社退社後、不動産ライターとして独立。在籍時代は、都心部の支店を中心に契約書や各書面のチェック、監査業務に従事。プライベートでも複数の不動産売買歴あり。業界に携わって10年以上の経験を活かし、「わかりにくい不動産のことを初心者にもわかりやすく」をモットーに不動産記事を多数執筆。