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伊藤将人

新しい移動のカタチ「MaaS」に地方自治体が熱視線を送る理由

MaaS×地方創生・地域活性化の事例と課題を紹介

クラウドリアルティでは、地方創生につながる様々な情報も提供しています。

今回のテーマは「MaaS」。国内にも、MaaSの推進によって交通の利便性を向上させている地方もあります。

そうした地方のMaaS事例やより一層の推進に向けた課題について、まちづくりライター・伊藤将人さんの寄稿です。

近年、その言葉を聞く機会が多くなっているMaaS。モノ消費時代の移動から、コト消費時代の移動へと世の中が変化するうえで注目される概念です。

MaaSは新しいビジネスを生み出すとともに、地域で暮らす生活者の住みやすさを大幅に向上させることを目的としています。この記事では、地域課題を解決するためにMaaSを実践する先進的な自治体・企業の事例を3つご紹介します。

なぜ地方自治体がMaaSに注目するのか

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MaaSとは「モビリティ・アズ・ア・サービス」を略した言葉です。

定義は関連事業者が増えるとともに拡大しており、定まったものはありませんが、国土交通省の『令和元年版交通政策白書』には「MaaSとは出発地から目的地まで利用者にとっての最適経路を提示するとともに、複数の交通手段やその他のサービスを含め、一括して提供するサービス」と書かれています。

2014年頃にフィンランド政府が新しい交通システムを構築する目的でスタートしたMaaSですが、半導体大手インテルの予測では、2035年に市場規模は約90兆円になると言われており、その規模は拡大の一途を辿っています。

さまざまな企業がMaaSに参入する一方、自治体もMaaSに熱い視線を送っています。

なぜならMaaSが本格的に実現すると、高齢化が進む過疎地での交通弱者対策や財政的に厳しい公共交通路線のアップデートなどが可能となり、多くの地域課題を解決できるからです。

MaaSの優等生・京丹後市の事例

MaaSの優等生と呼ばれているのが、高速バス大手WILLERや京都府などが参画している京都丹後鉄道沿線地域MaaS推進協議会(京都府京丹後市)です。

2019年から同協議会が始めた、京都丹後鉄道沿線エリアでの鉄道を主とした地方郊外型MaaSの取り組みは画期的です。域内に交通が行き届かない地域が多いこと、移動に関する情報不足、高齢者の孤立などさまざまな課題を抱えていました。そこで2020年2月10日~3月31日、実証実験を実施。

実証実験では独自のMaaSアプリを利用し、

➀チケットを事前に買わなくても、乗降時にQRコードを端末にかざすだけで移動区間運賃を即時決済

②事前に買ったチケットを持参していなくても、QRコードを端末にかざすことで購入情報が認証され利用可能

としました。➀の区間運賃に対応したQRコードによる即時決済サービスは日本初です。

同協議会によるMaaSの取り組みの特徴は、指定された鉄道・バス・一部の海上交通が全て、スマートフォン1つで即時決済可能となったことです。

スマホが普及したことで実現可能になったMaaSですが、もう1つの壁は事業者間の連携です。MaaSによるシームレスな移動を実現するためには、事業者が個々の利益を将来的に増大するために連携することが求められます。MaaS成功のカギはここにあるといっても過言ではありません。

最新技術を取り入れるだけがMaaSではないと示す八戸市の事例

青森県八戸市は、市が策定した公共交通再生プランなどに基づいて、事業者間の連携が飛躍的に進んだMaaSの成功例です。

八戸市のバスは多くの自治体同様、複数の事業者がそれぞれ系統・ダイヤを策定し運行しており、その数は平日合計228便もありました。

これを市が先頭に立って2008年に2事業者各系統、10分間隔のダイヤに調整した結果、平日は182便となり効率的な運営が実現されました。

八戸市はその他にも、派手さこそないものの、MaaS実現のために効果的な調整を多数行いました。

・2010年、中心街でバス事業者がそれぞれ独自に設置していたバス停を5ヶ所に再編

・バス停の名称を変更した上で、分かりやすいナンバリングを追加

・バスルートにカラーを設定し、視覚的にも分かりやすく

・2009年、市が3事業者の路線図をまとめた「バスマップはちのへ」を作成・配布

派手な最新技術を取り入れたものだけがMaaSではありません。限られた財源で利便性を向上させるためには「ちょっとした工夫」「わかりやすさ」と「事業者間連携の推進」が重要であることを八戸市の事例は示しています。

地方の新たな可能性をつくるADDress×ANAの事例

2020年1月16日、月額制で全国の拠点に住める多拠点ライフプラットフォーム「ADDress(アドレス)」を展開する株式会社アドレスは、ANAホールディングス株式会社と連携し、航空券定額制サービスの実証実験を開始することを表明しました。これは「拠点」と「移動」のシームレス化というMaaSの新しい形態です。

拠点がどこでも住み放題になる、サブスクリプション型の多拠点居住サービスADDressは、空き家問題の解決、関係人口の推進や多拠点居住の推進など地域の課題を解決するサービスとして注目されています。Crowd Realtyも拠点となる空き家改修のためのクラウドファンディングで連携しています。

実証実験では、ADDressの年間もしくは半年会員が月額3万円の追加料金を支払うことで、ANA国内線の指定便を月に2往復できるサービスを提供。

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複数の拠点を転々とするアドレスホッパーなライフスタイル×新しい移動サービスMaaSを組み合わせたサービスを実現しました。この実証実験からみえてくるのは、MaaSが拡大することで移動だけでなく「住まい」「家庭」「仕事」などにおいて、これまでの「当たり前」が変化する可能性です。MaaSによる当たり前の生活の変化は、都市一極集中の壁を打開し地方に新たな可能性をもたらすかもしれません。

地方でMaaSを推進するために

日本版MaaSは始まったばかりですが、トレンドで終わることなく永続的に拡大し、地域にプラスの影響を与えていくためにはいくつかの課題を乗り越えなければなりません。

特に、官民を超えた事業者間の連携がMaaS実現のためには不可欠です。利用者の利便性向上という最大目標を達成するために、パートナーシップを形成して複数事業者で利益をあげていくことを目指す必要があります。

自治体がMaaSのプラスな影響を生み出すためにカギになるのは、首長のリーダーシップです。パートナーシップの先頭に立てる人材の有無が自治体のMaaS実現のスピードを決定するでしょう。

首長のリーダーシップに欠ける場合は、観光DMOのように住民有識者や事業者も参加した組織を形成したうえで、今後の展開を考えるのも1つの手です。地域課題の解決にMaaSがどのように寄与していくのか、今後の展開に注目です。


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Profile

まちづくりライター
伊藤将人

1996年長野県生まれ。一橋大学社会学研究科にて地方移住と観光に関する研究を行いながら、KAYAKURA代表として長野県内外で観光インバウンド・移住・まちづくりのコーディネート・調査・PRを手がける。訪日観光客向けWebサイトNAGANO TRIP、地域考察WebメディアKAYAKURA運営。週刊SPAや公益社団法人 日本観光振興協会発行『観光とまちづくり』など執筆多数。東京都国立市と長野県の2拠点居住中

中村尚樹『ストーリーで理解する日本一わかりやすいMaaS&CASE』(プレジデント社)


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