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クラウドリアルティでは、地方に芽生える新たなビジネスの芽も紹介しています。
今回のテーマは「地方自治体におけるICT活用」。行政主導のICT活用によって地方に生まれている事業の実例を紹介します。
人口減少による人手不足という、地方自治体の直面する課題克服の手段として注目されているのが「デジタル技術/ICT(情報通信技術)」の活用です。この記事では不動産・建築に関連した地方自治体のICT活用事例を紹介するとともに、地方自治体のICT活用の可能性と課題に迫ります。
そもそも、なぜデジタル技術/ICTの活用が地方自治体で必要なのでしょうか?
2010年代、日本は人口減少社会に突入しました。2013年から安倍政権が進める地方創生は、最上位目的である人口の東京一極集中をいまだ解消することはできず、地方の人口減少は一層深刻化しています。
人口増加時代のシステムから脱却できない多くの地方自治体は、慢性的な人手不足と厳しい財政状況に陥っており、これらの課題の一刻も早い解決が叫ばれています。
そこで注目されるのがデジタル技術/ICTの活用です。
人口減少社会においては、人は人にしかできない仕事に注力し、電子化できる部分は積極的に電子化していくことが重要です。また、デジタル技術/ICTの活用は、地方自治体がこれまで苦手としてきた「統計的情報の収集管理と分析→根拠ある効果的なアクション」を実施しやすいシステムをつくることにつながります。これは、自治体の経営意識と収益化マインドを高める可能性を秘めています。
一方、多くの自治体で、デジタル技術/ICTの活用度合いは分野によって大きな差があることも現実です。情報通信総合研究所が2016年に実施した調査では、教育・防災・防犯などの分野でICT利活用事業実施率が60%を超える一方、インフラ・産業振興・雇用の分野では約20%に留まっています。
自治体や地方の事業者がデジタル技術/ICTを活用したいと思っても、どのように活用すればいいのか具体的なイメージが湧きづらいと思います。
そこでおすすめなのが総務省の「ICT地域活性化ポータル」です。
事業テーマ別、地域IoT分野別、人口別、条件不利地域別など、条件を変えて興味関心ある事例に素早くアクセスできる仕様になっています。
また、ICT地域活性化大賞のページからは特に優れた事例が簡単に閲覧できるので、これらを参考にすることで、効果的なデジタル技術/ICT活用がイメージできるかと思います。
徳島県神山町は、地方創生に携わる人の間では有名な自治体の1つです。
地方創生のロールモデルとしてメディアに取り上げられることも多く、2011年と2019年には、社会増が社会減を上回りました。以前と比較して、社会減が社会増を上回る状況に変わりはなくても、そのギャップは以前より小さくなり若者が多くなっています。そんな神山町が飛躍するきっかけの1つとなったのが、徳島県の通信ブロードバンド化と、2005年9月に町内全域に敷設された光ファイバーです。
ICT環境が整備されたことにプラスして、地元NPOが移住促進活動をはじめたことが後押しとなり、神山町や過疎地域に民間事業者や行政がサテライトオフィスを整備。ICTベンチャー系企業の誘致を行いはじめました。その結果、2017年までに16のサテライトオフィスが神山町では新規開設されました。
徳島県は「ふるさとクリエイティブ・SOHO事業者誘致事業補助金」と名付けて、サテライトオフィス開設や運営費用への充実した補助も行っています。神山町の成功の渦は徳島県全体に波及し、現在では県全体がサテライトオフィス誘致とICTベンチャー誘致に力を入れているのです。
この結果は数字にも表れています。1970年以降、「社会減(他の自治体への転出で減った人口数)」が「社会増(他の自治体からの転入で増えた人口数)」を上回っていた神山町ですが、2011年に「社会増」が「社会減」を超過。3年間で51世帯81名が移住しました。
神山町の事例からわかることは、自治体のICT活用と環境整備は住民の利便性を向上させるとともに、それ自体がブランディングとなりプロモーションとなるということです。
岐阜県東白川村は、豊かな森林に囲まれた人口2,400人弱の自治体です。
東白川村は、主力産業である林業や建築業の衰退に伴う雇用や村民所得の低下に長年頭を悩ませてきました。
そこで、主に営業エリアである愛知県・岐阜県の住宅建設を考えている人を対象とした「住宅の間取り・費用を自由に設計できるシミュレーションシステム」と「村役場の職員が代理人として最適な建築士や工務店をマッチングできる仕組み」を構築。
2010年、注文住宅受注減少の課題を解決して、国産材を使った建築を永続的に基幹産業としていくことを目的にスタートしたこの一連の取り組みは、「フォレスタイルプロジェクト」と名付けられました。
東白川村が運営するシミュレーションシステムWebサイト「フォレスタイル」では、間取りのシミュレーション・概算建築費の自動計算・比較や見積もりの提供・契約までのサポートを受けるができます。つまり、東白川村に出向かなくても、東白川村の木材を使い、工務店を利用して家を建てることが周辺県でできるのです。
フォレスタイルプロジェクトには村内の基幹産業である材木加工・住宅建築などの関係者が一体となって参加・協力したことで大きな成果を収めました。フォレスタイルプロジェクトは、第3回全国村長サミットで「村オブザイヤー(最優秀賞)」を受賞。
2009~2015年度は、国産材を利用した住宅建築の受注件数153件、売上高約40億円、東京都の顧客からも受注するなど、新規顧客の開拓にも成功。村の森林組合木材出荷量増(約48%増加)、建設業の売上増(約70%増加)、村民の一人あたり所得増(約16%増加)にもフォレスタイルプロジェクトは大きく貢献しました
東白川村のICT活用事例の特徴は、ICTによって村の基幹産業である林業・建築業の6次産業化を実現したことがあげられます。それまで一般的ではなかった「インターネットで住宅を売る」試みによって、インターネット社会の「比較」に慣れた20代~40代の選択肢に東白川村の林業・建築業が加わることができたのです。
もちろん、単に比較対象になるだけでなく、付加価値としてシミュレーターやモデル間取り公開、おすすめ業者の積極的な提案など「強みの見える化」と「徹底的なサポート」を行うことで、顧客に選ばれるビジネスモデルの構築に成功したのも大きいでしょう
ICTの活用が、自治体の収入拡大に直接影響を与えること、村民のシビックプライドを高めること、村外の人たちを対象としたアプローチができることを、フォレスタイルプロジェクトは証明しました。
自治体によるデジタル技術/ICT技術の活用は、地方自治体の課題を解決する一方で、現在二極化しつつある自治体間の格差をさらに拡大する可能性があります。
目的意識がはっきりしたデジタル技術/ICTの効果的な活用は、住民の利便性を向上させ人手不足で悩む自治体の課題を解決し、さらにブランドイメージの向上によって移住者が増加することにもつながります。
企業にとっては、地方の課題解決につながるデジタル技術/ICTを実装するハードルをいかに下げられるかが競争に勝ち残るための鍵です。
多くの自治体は可能な部分から少しずつ電子化していますが、自治体職員自身のマインドとシステムはいまだ「NOT電子化」のままです。官僚制に基づく書類主義・対面主義は一朝一夕に変わるものではなく、これが自治体のデジタル技術/ICT活用を遅らせている一番の理由といっても過言ではありません。
企業には技術を導入するだけでなくサポート体制や協力体制などのサービスも込みで、一括したデジタル技術/ICT導入を提供できるようにすることが求められます。導入する自治体にとっては、いかに早くデジタル技術/ICTを活用しはじめるか、職員や住民のマインドを変えられるかが、勝ち組になるための鍵になるでしょう。
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