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Fortec Architects 代表取締役 大江太人(おおえ たいと): 東京大学工学部建築学科において建築家・隈研吾氏に師事した後、株式会社竹中工務店、株式会社プランテック総合計画事務所(設計事務所)・プランテックファシリティーズ(施工会社)取締役、株式会社プランテックアソシエイツ取締役副社長を経て、Fortec Architects株式会社を創業。ハーバードビジネススクールMBA修了。建築士としての専門的知見とビジネスの視点を融合させ、クライアントである経営者の目線に立った建築設計・PM・CM・コンサルティングサービスを提供している。過去の主要プロジェクトとして、「Apple Marunouchi」「Apple Kawasaki」「フジマック南麻布本社ビル」「資生堂銀座ビル」「プレミスト志村三丁目」「ザ・マスターズガーデン横濱上大岡」他、生産施設や別荘建築等、多数。
WealthPark研究所 所長 加藤航介(かとう こうすけ)‐ プレジデント/インベストメント・エバンジェリスト:「すべての人に投資の新しい扉をひらく」ための調査・研究・情報発信を行っている。プロフィールはこちら。
(対談の前編はこちら)
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今回は「プロフェッショナルが変われば社会はもっと良くなる」をテーマに、Fortec Architects 代表取締役 大江太人氏とWealthPark研究所 加藤航介が語ります。(後編)
加藤: 業界の課題は、欧米的な合理的な考え方に沿えば、インセンティブの付け方で解決することができるかもしれませんね。私が昔いた金融業界の資産運用アドバイスという仕事でも、同じような問題が議論されています。お客様の老後やお子様、お孫様の代までを考えた資産形成や資産移転には、長期視点が必要とされるにもかかわらず、金融商品を売った瞬間に関係が終わるケースが多いんですよね。欧米では、金融サービスの対価に対する業者と個人のインセンティブ設計が大きく変わってきていて、一回の大きな支払いを受け取るコミッション型から、長期間にわずかなアドバイス料を受け取るフィー型に切り替えがかなり進んでいます。金融業界も設計・建築業界も、売り手側ではなく買い手側の視点に立ったインセンティブ設計が根付くことが求められますよね。建築業界においては、大江さんがおっしゃったような、顧客から「薄く長くフィーをいただく」ようなインセンティブの仕組みを定着させる難しさとは何だと思われますか?
大江:それで言いますと「適切なインセンティブ構造とは?」と考える思考自体が、建築士には浸透していないように思います。理由は、建築士のビジネス上の目標(KPI)が、有名な賞を取るとか、ある雑誌に作品を載せたいといった、デザイナーとして名前を上げていくことに、なっているからでしょうか。そうした賞を取る競争も建築士が切磋琢磨する上では大事なのですが、それはつくり手側の自己満足の世界の中にあるとも考えられます。
もし、私が自分の会社でKPIを一つ設けるとしたら、「優秀な建築家を、安定的に何人雇用できるか」にしたいですかね。それは、100人の優秀なアーキテクトがいるプロフェッショナル集団を維持できれば、現在の建築士業界が応えられていない多くの社会ニーズへ向き合えることができるからです。「何らかの賞を取った」などとは異なる社会的な大きな価値を、プロフェッショナルとして社会に還元できることになると考えます。さらに、顧客とインセンティブを一致させる新しい仕組みを構築できることが理想的ですね。
加藤: なるほど。建築の賞や事務所の売上といった分かりやすい指標をKPIとすることから脱却して、建築士の一人一人が、顧客目線に立った本質的なKPIを設定するという一例ですね。私は、一通りモノが揃った先進国では、個人が人生で本当に成し遂げたいことや、自分にしか社会に提供できない価値に真剣に向き合うことが大切になってくると考えています。また、企業体となればKPIもビジョンもミッションも、経営者の強い想いが込められたものではないとならない。大江さんが紹介された建築事務所の新しいKPIは、同業者からも顧客からも共感を呼ぶものと思います。
大江: 実は建築設計事務所は、他の専門家集団のようなスケールアップ(規模の拡大)ができていないんですが、その背景を実直に考えていきたいと思っています。例えば、世界最大の建築設計会社のGenslerでも、雇用されているプロフェッショナルな建築士は約2500人。対して、マッキンゼー・アンド・カンパニーは、9000人以上の専門コンサルタントを擁しています。それこそ、10000人の建築士を抱える事務所を実現できたら、社会の問題解決に大きなインパクトを与えられるだろうと思います。
また、日本の建築業界の課題を考える上で大切なことは、大手ゼネコンの強さです。圧倒的な設計・施工技術と実績を誇る彼らの存在は、スクラップ&ビルドという建築業者側が儲かるカルチャーを、日本に根付かせてしまったと思っています。私は、もともと大手ゼネコンにいましたし、ゼネコンの集結された技術力は、今でも素晴らしいと思っています。ただ、ゼネコンという一括で請け負う特殊な存在は、日本の建築業界において細分化された専門性や顧客思考の土壌が育ちにくかった背景になっていたとも思います。ゼネコンがあまりにも完成されており、かつ力があったゆえ、日本の建築業界は最先端の技術や、長期の顧客思想の導入が遅れてしまっていると思います。
加藤: 金融業界とまったく同じ構図に思います。金融でいうゼネコンは、大手銀行や証券会社グループで、グループ全体で全てを請け負う形にこだわったり、金融商品を顧客に回転売買させたりと、まさにスクラップ&ビルドを繰り返してきたのが実態です。この業界慣習は、フィデューシアル・デューティー(真の顧客思考)の観点から大変に問題であり、監督官庁の指導も入り少しずつ変わってきていますが、実態はまだまだ過去の慣習に引っ張られているところがあります。日本は戦後から高度経済成長を経て先進国になりましたが、先進国になった途端に成長がピタリと止まってしまっています。建物や金融商品をスクラップ&ビルドしてはだめで、業界構造自体をスクラップ&ビルドしていかないといけない段階にきているのだと思います。
大江: おっしゃる通りと思います。また、日本の成長が止まってしまった別の理由としては、外国資本や外国人の人材を国内へ受け入れる素地ができなかったことが挙げられると思っています。実は、海外と日本の架け橋になることも、私が起業してやりたかったことの一つなんです。過去に丸の内や川崎にあるApple Storeのプロジェクトを請け負ったのですが、Appleという海外の企業文化を理解し、彼らが表現したいと考えている世界観を、ドメスティックな日本の大企業とコミュニケーションをしながら、一緒にデザインしていきました。これは設計業務でありながら、プロジェクトマネジメント業務でもあって、クライアントである外資系企業側と日本の不動産会社やゼネコン側の間に立って、それぞれの要求を咀嚼して、コンフリクトが起きないようにマネージしていくことには、大きなやりがいを感じました。
大江: あと、建築の分野では、日本で働きたいという海外のトップスクールの学生もとても多いんですよ。ファイナンスの分野だったら、ニューヨークと東京に就労の機会があったら、加藤さんのようにニューヨークを選びますよね(笑)。日本の建築のレベルは世界からも高く評価されていて、建築士として最も権威のあるプリツカー賞の受賞者も、実は、日本人が一番多いんです。ただ、漫画やアニメなどの文化は海外とのビジネス上の繋がりが強くなっていったのに対し、建築では海外ビジネスを上手に取り込めていない実態があり、個人的には大変残念に思っています。だからこそ、建築士として先のApple社とのプロジェクトのように外国資本が日本に投資しやすい環境を手助けしていったり、東京や日本で働きたい多様な建築士を呼び込める環境作りにも貢献したいと考えます。我々は、日本の人口が減っていく時代に向き合っていく世代です。日本の将来を明るくするためには、海外との架け橋としての仕事を積極的に引き受けていきたいです。
加藤: とてもよく分かります。社内で「投資って、本当にすばらしい!」という勉強会を定期開催しているのですが、その一つの柱となる考え方として、お金や人材がダイナミックに国境を超えて動かないと、特に先進国となった国はそれ以上は豊かにならないというテーマを取り上げました。自国をえこひいきする閉鎖的な考え方を貫くことは、大きな視点で見ると自国にとってマイナスになるということです。世界各国の国際収支統計を、貿易に関係するカレント・アカウントと、投資に関連するファイナンシャル・アカウントで見ていくと、新興国は貿易で儲けるというフロー面が重要です。一方、先進国になると、ストックとそこから生み出されるフローが重要になってきます。つまり、自国の企業や不動産などに他国からどれだけ投資をしてもらえるのか、そして自国から海外の事業や資産にどれだけ投資をしていけるのか、その合わせ技で個人も企業も国も「優良なバランスシートを作る」という発想が大切になります。これは平成の時代に日本がやっておくべき宿題でもあったのですが、日本人にはフローからストックへの、豊かさのマインドセットの切り替えをする必要があると思います。これからの働き盛りの人は、よりグローバルな投資にアンテナを張ったり、多様な資本や人材の中で活躍の場を探すことが大切だと思います。
加藤: 最後に、大江さんが作られていきたいアーキテクト集団という「チーム」についてお伺いさせてください。大江さんのビジョンに賛同する方であれば国籍や年齢、性別も関係ないということだと理解していますが、どのようなチームを作られていきたいとお思いですか?
大江:はい。「オーナー側のビジネスの視点で建築を考える」ことはチーム全員で強く共有していきたいです。建築物のディテールやデザインなどのアウトプットにこだわるなどの職人的な生きがいも大切だとは思うのですが、より顧客に寄り添えるチームをつくっていきたいです。例えば、物流工場の建築計画を立案するといった仕事は、地味でデザイン的な要素は少ないのですが、顧客にとってはビジネスに直結する大切な案件です。そして、そのような仕事を通じてオーナー様と信頼関係を築くことで、本社ビルや研究施設や、またはご自宅や別荘などといった、デザイナー個人としてのブランディングに繋がる仕事を任せていただける可能性が出てくるんです。私の経験からも、そういうことは過去、沢山ありました。つまり、縁の下の力持ち的な仕事が実はオーナー様にとって一番大切であり、顧客の総合的なウェルスマネジメントの一環を担わせていただいているということを、つくり手として常に意識できるチームを作っていきたいと思います。そうしたチームを土台として、長い期間に渡ってアドバイザリー報酬などを積み重ねていく、建築業界の新しいストックビジネスモデルを実現していきたいと思います。
加藤: これは業界を問わずですが、オーナー側の視点を持つとは、多くの場合、長期の視点を持つということに帰結すると考えます。
大江: オーナーの視点で建築物をつくることは、これからの時代の大きな潮流になると思うんですよね。昔の建築家の役割とは宗教空間を作ること、つまりその当時の文化や哲学を表現することでした。パトロンと共に、宗教文化の世界観を具現化することが、建築家の役割だったわけです。ではその現代版はというと、経営者とビジネスを一緒につくる、ということなんじゃないかなと思うんです。なので、建築家としてビジネスマインドを磨き、自身の専門知識を社会に還元することを目指していきたいと思います。
加藤: 建築士というプロフェッショナルとして、どのように社会に貢献していくかの意気込みをお聞きし、沢山の勇気をいただきました。我々WealthParkも、世界で最大の資産クラスである不動産を、デジタルの力でより個人に開放していくことにより、人々と社会がより密接に結びつく、豊かで幸せな新しい世の中を作っていきたいと思っています。投資や資産運用を正しく理解して活用することは、社会と個人の豊かさと幸せに大きく影響することに疑いはありません。投資という古くて新しい人類の発明を、オーナー側の視点に立って社会の役に立つように再定義していきたいと思います。本日はありがとうございました。