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伊藤将人

ふるさと納税の課題と可能性―2020年代ふるさと納税の行く先を考える―

納税者として今考えるべき、ふるさと納税の在り方

寄付をする側からするとつい、「返礼品」にばかり目を向けてしまうふるさと納税。しかし、納税者としてその制度について考えることも重要です。そこで今回、一橋大学大学院で地域社会学を研究する伊藤将人さんに、これまでのふるさと納税の歩みと、これからの在り方についてご寄稿いただきました。

ふるさと納税の未来

2008年にスタートしたふるさと納税は、2010年代に規模を拡大すると共に、制度の整備が行われました。2020年代、ふるさと納税はこれまで以上に「質の充実」と「多様化」が進み、「本来の目的の達成」することが求められると予想されます。ふるさと納税にとって新たな10年が始まる前に1度立ち止まり、課題と今後の展開を検討したいと思います。

「モノ消費」から「コト消費」へと変化するふるさと納税

2010年代、ふるさと納税は「どれだけ還元率の高い返礼品がもらえるか」という過度な返礼品競争に陥りました。

2019年、総務省は過度な返礼品競争にストップをかけるため規制を強化。寄付先の選択基準が「還元率」から「質の高さ/体験・交流」へと変わっていくことが予想されます。

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実際、ふるさと納税を寄付者との持続的な交流のきっかけとする自治体が出てきています。

そうした自治体が活用しているのが、ガバメントクラウドファンディングです。

ガバメントクラウドファンディングは返礼品目的ではなく、地域を応援するプロジェクトに共感した方から、寄附金を集める行政が実施するクラウドファンディングです。返礼品は通常のクラウドファンディングのように金額に応じてもらえる自治体もあります。また税の一部控除は受けられます。

コスパの良い返礼品目当てではなく、自治体の課題解決に寄付者の意思を反映させるガバメントクラウドファンディングは、返礼品をもらって終わりではなく「応援したい自治体が活性化する過程をみる」「応援したプロジェクトを確認するために訪れる」など、持続的に寄付者と自治体の関係性をつくりだします。

ガバメントクラウドファンディングなど、新しいふるさと納税の仕組みの誕生は、ふるさと納税の「モノ消費」から「コト消費」への移行を表しています。ふるさとコトの消費化とは実際に自治体を訪れてもらったり、プロジェクトの応援自体を楽しんでもらったりすることを指します。

ふるさと納税のコト消費化は、自治体に対し「なんとなくのふるさと納税」から「明確なビジョンと将来設計のあるふるさと納税」への移行を迫るものでもあります。観光や地域PRと同様に、ふるさと納税は「目的」ではなく「手段」です。

体験・交流を創出することで、関係人口や移住者増につなげる。地場産品を都市圏でPRし、消費者を増やす。地域の雇用を創出する。地域課題を解決する……。

コト消費時代では、自治体が明確なビジョンを掲げているほうが、共感によって寄付が集まりやすくなると考えられます。寄付者も自治体も改めて「なぜ、ふるさと納税をするのか」を考えることが大切です。

ふるさと納税は自治体間の税収格差を是正できるのか

従来、大都市圏とその他自治体の税収格差是正の役目を担ってきたのは、地方交付税でした。地方創生の流れの中その規模を拡大してきたふるさと納税は、地方交付税の代替施策ないし補完施策になりうるのか。制度開始以降、常に注目を集めてきました。

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ふるさと納税制度の受け入れ額と流出額の状況を地方別にみた場合、三大都市圏在住者が他の自治体に寄付したふるさと納税額は、地方自治体の収支に大きな影響を与えていることが明らかになっています。これは都市圏在住者が多くふるさと納税を活用していることを示しています。

特に東京23区を含む関東地方では、納付されたふるさと納税の控除額が全国で最も高く、関東地方から税源の一部が地方へと移転しています。このことから、一定程度都市部の税源を地方に還元することで自治体間の税収格差を是正していることがわかります。

一方、ふるさと納税をする人が多く財源が他地域に流出している大規模な自治体では、財源不足が生じているところもあります。これはふるさと納税により従来の税源が他の地方自治体に流れ出て少なくなっていることと、多額の地方交付税の原資を払っていることなどが理由です。ふるさと納税により多額の財源が流出した自治体は、地方交付税によって一部補填される仕組みになっています。しかし地方交付税の不交付団体である東京23区は補填の対象となっていないため、純粋な減収となっているのです。

このことは、ふるさと納税が東京23区とその他地域の税源のアンバランスな状況を是正する効果を有していることを示しています。しかし別の側面からみると、大都市と地方の新たな分断を招いているともいえます。政令指定都市の市長の中からは「ふるさと納税だけでは税収の格差は是正できない」「新たな財源の不平等が生まれている」という声も上がっているため、近い将来、抜本的な見直しが必要かもしれません。

また税源の移転によって恩恵を受けている地方自治体も状況は一様ではありません。約30%の自治体が寄付の受け入れ額よりも流出額が多くなっているため、メリットを享受している自治体とデメリットがある自治体の分断が大きくなっています。

ふるさと納税が今後さらなる地域間の分断を生まないためにも、地方交付税など他の制度と組み合わせバランスをとりながらより適切な制度設計をしていく必要があるでしょう。

ふるさと納税による「分断」を避け「共存共栄」を

ふるさと納税がかかえる課題と今後の展開について2つの視点から検討しました。地方創生の観点からふるさと納税を捉えると、税収格差是正でも触れたように「ふるさと納税をキッカケとした地域の分断」は避けなければなりません。

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ふるさと納税は税収と深くかかわるため、基本的に自治体単位で議論されてきました。しかしふるさと納税のコト消費化と自治体間のふるさと納税格差の拡大する時代においては、自治体の枠を超えて広域で連携することが重要です。自治体を超えて連携することで寄付者にとっても各自治体にとってもメリットが大きいケースが出てくるでしょう。

2020年代のふるさと納税には、関わる全ての自治体と寄付者が「共存共栄」していくような持続可能な制度の在り方が求められます。

【関連記事】返礼品を受け取って終わり…そんなふるさと納税で満足していますか?

Profile

まちづくりライター
伊藤将人

1996年長野県生まれ。一橋大学社会学研究科にて地方移住と観光に関する研究を行いながら、KAYAKURA代表として長野県内外で観光インバウンド・移住・まちづくりのコーディネート・調査・PRを手がける。訪日観光客向けWebサイトNAGANO TRIP、地域考察WebメディアKAYAKURA運営。週刊SPAや公益社団法人 日本観光振興協会発行『観光とまちづくり』など執筆多数。東京都国立市と長野県の2拠点居住中.Twitter@ito_masato


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<参考資料>
・冨田武宏『ふるさと納税制度による税源の偏在是正機能と限界』
・NIRA総合研究機構 『ふるさと納税の新段階』(2018年1月)


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