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ワイン投資って何?全3回の連載最終回は、ワイン投資に参加する方法や、ワイン価格指数について、詳しく解説していきます。
WealthPark研究所 所長(以下、ケイ):さて、前回までで、ファインワイン産業の仕組みや、ワイン投資の利回りについて解説しましたので、今回は、ワイン投資の方法について整理していきましょう。
社員:はい、これも興味があります。金額としては、数十万円ぐらいからスタートできるってことでしたよね。
ケイ:はい。ワイン投資へ参加する方法は主に3つに分けられます。
①ワイン商から購入しての現物投資(貸倉庫に保管)
②ワインファンドへの投資(金融商品を保有)
③オークションに参加しての現物投資(貸倉庫に保管)
この中で最もメジャーなのは、①ワイン商から購入しての現物投資(貸倉庫に保管)です。そして①と②の場合、投資を斡旋する会社のアドバイザーやファンドマネージャーが、独自の目利きや顧客へのヒアリングを通じて、ファインワインのポートフォリオを組んでくれます。③はワインに相当詳しい人で、かなりのお金持ちでない限りは、関係ないでしょう。もっとお金持ちになると、ハリウッドスターのように自分のワイナリーを持つような投資もありますね。
①の方法がよりメジャーな理由は、多くの投資家は自分の資産を増やすためだけでなく、自分で飲んだりプレゼントしたりという、人生の楽しみをワイン投資に求めているからです。空調管理がしっかりされた保税倉庫でワインを貯蔵し、必要な時にワインを取り出し、残り部分は投資を継続していくということです。なお、投資をしたワインは購入した時点で自分の資産ですので、投資用ワインを販売した業者が倒産したとしても、個人資産は影響を受けない形をとります。
次に②のワインファンドへの投資は、金融商品を買う形での投資になります。①との大きな違いは、実際にワインを飲みたくても飲めないことですかね。また、ファンドへの投資後、5年程度はお金を引き出せない制約があることも多く見られます。まあファインワインは長期で投資をすることが前提ですし、投資家側は短期の価格変動に一喜一憂することなく、ワインファンドを運用する側も長期視点で投資に取り組めるなど、引き出し制約には良い側面も多いのですけどね。なお、有力なワインファンドの運用会社は外国籍なので、その説明や手続きなど、外国語のハードルを感じられる方も多いでしょう。
社員:なるほど。いずれにしてもワイン卸として投資サービスを斡旋している信頼できる業者などから、投資用のファインワインを買うのがメジャーな方法なんですね。
ケイ:はい。次に投資に関わる税金についてもグローバルにみてみましょうか。値上がりした時の税金面において、①の現物投資の方がメリットが大きい国が多くあります。投資商品や収集物が値上がりした場合、通常は値上がり益(キャピタルゲイン)に対して課税がされますが、例えばイギリスやフランスでは、ワインは”Wasting Asset”(価値が50年以内には減耗して無くなるであろう資産)という税法上の特別な資産と見なされて、キャピタルゲイン課税はゼロとなります。ナマモノとして、絵画や高級時計などの収集品とは違う資産だと見なされているのです。一方、②の場合は金融商品なので値上がり益に対して20%なりの税金がかかります。
社員:えーー。それは、またまたかなり面白い特徴ですね。需供面だけでなく、税制面でもかなりワイン投資はかなり特殊なんですね。日本の場合でも税金は、ひょっとしてゼロ!?
ケイ:残念!日本では①の現物投資でも②のファンド投資でも、値上がり益に対して税金はかかります。①の場合、譲渡所得として値上がり益に対して、個人の所得税・住民税に対応する税率がかかります(年収によって税率は異なる)。ただ年間50万円の基礎控除があり、毎年確定した値上がり益50万円までは課税はされないので、値上がりしたワインを小分けに、タイミングを見て売却するのが賢い方法ですね。②の場合は、投資先のファンドの種類によって税金の扱いが変わってきますので、税理士などの専門家に確認が必要です。アメリカでは、収集品として値上がり益の28%の課税が一般的です。
社員:そっか、残念(笑)。イギリスとフランス、いいですねぇ。
ケイ:ですね(笑)。税法は各国の文化や商慣習を反映するので、これは致し方ない。フランスに旅行すると、小売店でワインが超安いことに驚きます。これは国策としてワインに対する酒税が一本3セント(約4円)と極めて低く設定されており、小売価格が5ユーロや10ユーロ(600円〜1200円程度)のワインでも、超美味しいんです。数十年前まで、フランスの多くの工場ではひねるとワインが出てくる蛇口があって、工員はワインが飲み放題だったという話もあります。今は、事故などにつながるということで無くなってしまいましたが(笑)。と、話がそれましたが、皆さんにとってまず大事なのは、ファインワイン投資の利回りや自ら飲む楽しみであって、税金は副次的な話なので、主従関係を間違えないようにしてくださいね。
なお、①のワイン投資においては、業者からワインを購入する時、売却する時、共に、ワインの流通業界における「卸値」で取引をするのが基本です。具体的には、ワイナリーの出荷価格に5〜10%程度の卸業者のマージン(利益)を乗せた価格に、倉庫までの輸送量や各種税金などを加えた金額が、個人の投資価格になりますね。その後の保管料は、場所によって異なりますが一本100円/年〜といったところでしょうか。日本の倉庫に保管する場合は、地震対策が完璧にできている必要があるので(ワインケースを山積みにせず平置きにするなど)、保管料は高くなるのが一般的です。そして、売却する時に業者に支払う手数料は、0%〜10%まで様々です。アマゾンや楽天などで個人やレストランの買い手を見つければ、卸値より3割程度高く(小売店のマージンに相当)売却することが理論的には可能なんですが、それは簡単ではないので、投資リターンを考える時には当てにしないほうが良いでしょう。
②のようにワインファンドへ投資をする時は、投資金額に対して年1%〜3%程度の運用手数料が発生するのが一般的です(100万円投資すれば、年1〜3万円程度)。また5%程度の初期購入手数料(同5万円程度)や、運用益に対して20%程度の成功報酬が課される(150万円に値上がりすれば10万円程度)など、手数料の種類や程度はファンドによって様々です。これらの手数料が割高なのか割安なのかは、投資先のファンドのパフォーマンスや他のサービス次第なので、一概には言えませんね。
社員:そう言えば、前回、過去のワイン価格のチャートを見ましたが、ワイン指数なるものがあるんですね。知りませんでした。なんだか株式市場みたいですね。。。
ケイ:そうですね。指数は、ある資産の市場全体の値動きを把握したり、自分の投資成績を客観的に知ることができるので、あると便利なんですよ。ファインワインの指数で一番有名なのは2000年に発足したイギリスのLiv-ex社が運営する取引所が発表しているLiv-ex fine wine 100という指数で、これが業界のスタンダードになっています。Liv-ex(ライブイーエックス)は、The London International Vintners Exchangeという取引所(市場:マーケットプレイス)を運営しており、ライセンスを持つ500社超のワイン卸が取引する約16,000種のワインの実際の取引価格を参考とし、代表的な100ブランドの価格を指数化しています。中身が気になる人はホームページからダウンロードして回覧する事が可能ですよ。同社はより地域や銘柄を広げたLiv-ex fine wine1000の指数など、複数の指数を発表しています。またイギリスのBordeaux Index社やCult Wine社、アメリカのVinovest社など、様々な会社が独自の指数を発表していますね。
社員:Liv-ex fine wine100のような指数を見れば、まるで日経平均株価やダウ30平均株価のように、ファインワイン市場全体の価格の値動きが分かる訳ですね。
ケイ:はい。Liv-exは2000年に10名の創業メンバーで開始されましたが、この取引所で取引されるワイン価格や発表されている指数が世界的に信頼されている理由は、SIB(Standard in bond)契約という「保管状態が完全であるワインのみを取引する」ことが厳格に定められているからです。参加している500社超のワイン商でこのルールを破る者は、ギルド(職業集団)から叩き出されてしまい、大切な権益を失います。Liv-exのシステムの中に入ってワインを物色していると、ワインのラベルの一部がほんの少し剥がれていても、それはSIBの商品とは見なされず、注記が付くぐらい厳格です。これは中古車の市場などにも共通するのですが、実物商品の市場というのは、その商品の信頼性が最も大切になります(経済学ではレモンの法則と言われるトピックです)。この辺りの信頼される市場の仕組み作りなどは、イギリス人の「市場」に対する深い理解を感じさせられますね。
社員:なるほど。さすが金融先進国のイギリスってところですかね。。ワイン投資を勉強すると、フランスやイギリスの思想まで勉強できる感じがします。ちなみに、業界スタンダードのLiv-ex fine wine 100に価格が連動するETF(上場投資信託)やファンド(投資信託)っていうのは存在するんですか?
ケイ:世界を見渡しても、見当たらないですね。ETFの開発を計画している会社は複数あるようですけど。株などの既に金融商品になっているものを集めてETFを作るのと比べて、ワインなどの実物商品から金融商品であるETFを作るのは相当に手間がかかるし、ある指数のパフォーマンスを正確にトラックするのはかなり難題でしょうね。
社員:色々と勉強になりました。全然ピンときていなかったワイン投資ですが、ファインワイン産業の全体像、ワイン投資家の社会的な役割、ファインワインの価格が上昇してきたユニークな特性、ワイン投資に参加する方法やワイン指数など、とてもよく分かりました。同時に、フランスやイギリスなどの社会風土やビジネス上の知恵なども見えてきて、思わぬ知見も広がりました。
ケイ:そうですね。何らかの投資に参加する素晴らしさの一つは、その資産や背後にある産業の勉強を通じて、今まで見えなかった社会の輪郭がよりはっきり見えてくることです。でも、このような大人の教養は、投資の価格チャートを見て単にお金を儲けようと考えている人では、身につけることはできません。投資の背景にある社会の仕組みを学ぶことで、投資の真の楽しさが初めて分かってきます。では、ファインワイン投資についての、要点をまとめましょう。
・ワイン投資家は、ファインワイン産業のエコシステム(循環的な仕組み)において重要な役割を果たす・ファインワインには、その価格が長期で押し上げられていく、ユニークな特性がある
・過去の価格の値上がりは、年間で平均10%以上。値上がりするかは、ファインワイン産業が、より多くの人々の豊かさや幸せに貢献できたかで決まる
・ワイン投資家になるには複数の方法がある(現物投資やファンド投資)
・代表的なファインワイン群の価格動向を参照できる指数が存在する
ワイン投資とは、ファインワイン産業のエコシステムに「貯蔵」という役割で事業参加し、ファインワインを通じて消費者や社会の豊かさや幸せが増加する一部を、後から受け取る仕組みです。ワイン「投資」をしているのではなく、ワイン「事業」を行っているのだ、という意識を持つのがより実体に近いと思います。そして、このファインワインのエコシスステムに共感し、ワイン事業を行う良きパートナー(業者)に巡り合えたなら、一般の方がワイン投資を検討されるのは個人的に悪くない選択肢と思います。
なお、ファインワインはじっくり熟成され美味しくなっていき、そのストックは飲まれて少しずつ減っていく訳で、その投資は5年や10年以上の時間をかけて長期で取り組んでいくものです。また、その途中で、実際に飲んだり人にプレゼントしたりと、値上がり以外を楽しみながらの投資となるので大変に楽しいものと思います。
社員:なんにせよ、ワインの熟成のように、気長に投資をしていこうう、ってことですね。
ケイ:はい。最後にもう一つ。ワインなどの「お酒」は人間社会に何千年も根付く文化ではありますが、アルコールの過剰摂取などは世界的に解決すべき社会課題です。社会活動にSDGsが求められていくこれからの時代、ファインワイン産業が社会の笑顔を増やしていけるよう、各々の投資家が金銭的な価値以上のより高い意識をもって、ファインワイン投資に参画することも大切になってくると思います。
では、今日はこの辺りで。これからも「お金、経済、投資の素朴な疑問」について一緒に考えていきましょう。お疲れさまでした。
(第1回の記事、「ファインワイン産業について」の解説はこちら)
(第2回の記事、「ファインワインの利回り」の解説はこちら)
(続編に続く)
WealthPark 研究所 プレジデント(所長)/インベストメント・エバンジェリスト
加藤 航介
日系・外資系の大手投資会社において、ファンドマネージャー、投資啓発などの要職を歴任。英国・米国に約10年滞在し、世界30ヵ国での投資実務を経験。「実体験が大切、自分とアドバイスの聞き手は同じ船に乗る」との考えから、個人資産の運用においても国内外の金融資産、不動産(一棟・区分・海外)、多様なオルタナティブ資産への豊富な実経験を持つ。米国コロンビア大学MBA(経営学修士)修了。米国公認会計士、ファイナンシャル・プランナー、証券アナリスト試験に合格。英国ケンブリッジ大学 Executive Program(GMCA) 2020–2021在籍中。一般社団法人 投資信託協会「すべての人に世界の成長を届ける研究会」客員研究員。