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WealthPark研究所所長 加藤航介

「ワインが投資になる」って聞いたんですが・・・(2) ワイン投資の利回り【WealthPark研究所】

クラウドリアルティの新しいコミュニティとして、WealthPark研究所より様々な投資情報をお届けいたします。

「教えて、WealthPark!」では、皆さんのお金と投資に関する素朴な疑問を解決していきます。寄せられた疑問を題材とし、皆さんが真の投資力を身につけ、より良い人生に近くづくことを目指していきます。

ワイン投資って何?全3回の連載2回目は、ファインワイン投資の利回りについて、詳しく解説します。

(初回の記事、「ファインワイン産業の全体像」についてはこちら。)

ワイン投資の利回りについて

WelathPark研究所 所長(以下、ケイ):さて、前回でファインワインの産業全体の仕組みは整理しましたので、次は皆さんがワイン投資家としてファインワイン産業の参加者となった場合に、どれぐらいの利回り(リターン)が出ていたのか、そしてワイン投資の基本的な概要を見てみましょうか。

社員:はい、とても興味があります!

ケイ:なお、ここでは外部のアドバイザーを絡めたワイン投資について説明しますね。個人が酒屋や旅行先でお気に入りのファインワインを買って、自宅のワインセラーに10本ぐらい寝かせている、などのケースは除きます。では、ワイン投資における一般的な概要を整理すると、次のようになります。

・過去の利回り:年率13%程度
(Liv-ex Investables index:1986年より)

・投資の手法:
① ワイン商から購入しての現物投資(貸倉庫で保有)
② ワインファンドへの投資(金融商品を保有)
③ オークションで購入しての現物投資(貸倉庫で保有)

・投資金額:10万円〜数千万円程度

・投資期間:一般的に5年〜10年以上

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社員:なるほど。過去30年ぐらい、長期的にファインワインの価格は上がっているのですね。利回りは年平均で13%ですか!!シンプルにすごい高いですね〜!もう少し説明してもらえませんんか?

ケイ:おっしゃる通り、株、国債、預貯金、不動産などの他の投資と比較しても、とても高い利回りと感じられると思います。過去60年以上、長期的に右肩上がりのアメリカの株価指数S&P500種指数でも年平均で約8%の利回りですので、13%は驚きですよね。年13%の利回りというのは、約5.5年で価格が倍になることを意味します(数が2倍になる72の法則に当てはめると72÷13=5.5)。そして、この高い利回りが出ている背景は、ファインワイン特有の需給要因で説明されます

需要面:適切に保管されたワインは、長く貯蔵されるほど美味しくなる(高い値段を払っても買いたいという人が増える、つまり時が経つほど、需要が増える)

供給面:貯蔵されたファインワインは、毎年少しずつ飲まれていく(世の中に存在するストックは確実に減っていく、つまり時が経つほど、供給が減る)

このような特性のある資産は、他になかなか見当たらないと思います。あるフランス人のワイン卸の業者に聞いたら「あるワイン投資家が1ダース12本を買うと、10本は投資に回し、2本はギフトとして配る。その後、毎年1本づつ飲んでいくイメージです」とのこと。世界の富裕層に向けた調査では、富裕層の3割弱がワイン投資を行なっているとされていますが、その内の7割が「お金のためだけにワイン投資を行なっていない」と答えています。つまり、自分で楽しんだり、知人にプレゼントするために、ワイン投資を通じた貯蔵をしています。これは「人生の情熱のために投資をする」ということで、ワイン投資は”Investment to passion”(情熱への投資)などと言われています。いずれにせよ、過去に生産されたファインワインのストックは着実に減っていき、それが過去の高い価格上昇につながっているという訳です。

社員:へー。面白いですねー。例えば現代アートや高級時計なども、長期で保有すれば価格が上がるという傾向が見られるようですが、ワインのように消費されて世の中から存在が無くなってしまう訳ではないですいよね。資産としてのワインは、とてもユニークなんですね。

ケイ:そう思います。なお、2010年以前はファインワインといえばボルドー産のワインでしたので、上記の過去30年程の指数はボルドー産ワイン投資の成果となっています。

また、ボルドーやブルゴーニュといった有名なワイン生産地は、新たにブドウ畑を開発できる土地が全くといいほど残っていません。シャンパーニュ地方もそうですが、その土地で作られているというブランド、供給における希少性が極めて高いのです。ブルゴーニュはボルドーと比べてブドウ畑の作付け面積が半分以下であることもあり、ここ10年程、ブルゴーニュ産のファインワインの価格は特に大きな上昇を見せています。

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社員:なるほど。ところで、過去の価格推移を見ると基本的には右肩上がりなんですが、2010〜2013年頃に価格が高騰して、その後、急落しているように見えます。当時、何かあったんですか?

ケイ:はい。これには2つの要因があります。まず、2008年に当時は100年に1度の不況と騒がれたリーマンショックを受け、フランスのワイナリーが2009年~2011年にかけて生産量を10%程度減らしたこと。また、こちらの方が要因としては大きいと思いますが、中国での高級贈答品ブームが起き、その取り締まりが当局により行われたことです。リーマンショック以降、中国政府は景気対策のために巨額の公共投資を行なったのですが、同時に汚職や贈賄などが中国中で横行してしまいました。公共工事の受注を受けるため、高額な酒類や革製品などを賄賂として送るなどの行為が当たり前になってしまったのです。そして、この時期はファインワインだけでなく、世界の様々な高級品が暴騰しました。その後、中国政府はこれを社会問題として厳しく取り締まったため、ファインワイン価格は元のあるべき水準に戻る過程で下落した訳です。

社員:なるほど。一国の汚職が世界の高級ワイン価格を動かしたとは。。。

ケイ:はい。ただ、上記は特殊要因と考えられますし、今後、中国政府は国内で同じ事態を起こす事はないでしょう。高級品の贈答禁止の法律も2012年に制定されています。また、急騰急落の前後の価格水準は、数年かけて切り上がっているので、この特殊要因を除いたファインワインの真の価格は着実に上昇していたと考えることもできるでしょう。また、ワイナリーや優良なワイン商も、このような乱高下する状況は由々しき事態として捉え、今後、同じような事が起きないように取引する卸の選別や、トレーサビリティーなどの管理を厳格化させました。雨降って地固まるではないですが、このような問題はファインワイン業界全体のエコシステムをさらに強化することになったと思います。

社員:何かの事件があると、それを取り締まる決まりができて、段々と健全な市場の仕組みが整っていく訳ですか。

ケイ:そうですね。ワインに関わらずですが、自由経済や自由市場には本作用と副作用があります。自由市場の本作用とは、モノやサービスの社会的な価値が価格に正しく反映され、社会の資源が適切に配分されていくことです。その道の専門家が「これは幾らです」と決めるより、自由な市場における売買で値段を決めていった方が、結果として、より正しい価格が付くことは様々な研究で明らかになっています。そして副作用は、まさに上で見たような特別な要因で、価格が一時的に歪められること、本来の価値から価格が大きく乖離してしまうことですね。このような状態は「バブル」と呼ばれますが、一時的に、まるで泡のように価格が膨らんでしまい、その後に本来の価値まで下落が起こる現象を指します。そして、下がる時は大きく下ります。

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社員:大きく下落ですか。なんだか怖いですね。。。

ケイ:いえいえ、それほど心配をすることはないと思いますよ。市場価格を長期により強く動かしているのは、明らかに本作用の方ですから。つまり社会的な価値が価格を決める。ファインワインの場合は、副作用が働いた急上昇と急下落の前後において、価格水準は切り上がっていることが、より大切ですね。副作用の下落で大損をするような人は、バブルで価格が急上昇しはじめてから「短期的に儲けてやろう!」という強欲で、取引に参加してきた人が殆どです。賢人であれば、保有している資産の価格が急上昇したら「何だか意味もなく上がってるなぁ。どうせ後で下がるだろうけど、それは短期の話。良い資産は長期で持つだけ」と考えます。

社員:なるほど。短期視点の人と長期視点の人で、値動きに対する考え方が全然違いそうですね。僕は、、、できれば長期視点でいきたいです。

ケイ:そう思いますよ。そもそもワイン投資は、ジワジワと需給がしまって価格が上がる仕組みに基づいているので、それに従って長期の投資を取り組みましょうね。さて、次に「ワイン投資で分散投資」という話をしましょうか。ワイン投資は「分散投資として優れている」という事が良く言われるんです。これを考えてみましょう。

ワイン投資は「分散投資として優れている」

社員:分散投資ですか??あの「1つのカゴに全ての卵を入れるな」みたいな格言ですよね。

ケイ:はい。通常、皆さんが持っている資産は、預貯金、株式、国債、不動産などが多いと思うのですが、ファインワインの価格の短期の値動きは、それらの資産と、過去、かなり異なっていることが数学・統計的に証明されています。特に不況などで株価などが下がったときに、「一部の資産をファインワインなどへ分散投資していると、資産全体のダメージを減らしてくれますよ」という文脈でワイン投資が推奨されたりします。

社員:ふむ。ピンチの時にダメージを減らしてくれるですか。良いことのようにも聞こえますし、でもピンチありきの話なので、悪いことのような。よく分からないですね。

ケイ:はい。その感覚で正しいですよ。個人の投資において、一番大事なのは「長期で価格が上がっていく優良な資産であるのか否か」です。「不況時にクッション(保険)になる」というのは、あくまで二次的な話ですからね。

社員:つまり「ワイン投資は分散投資として良い」は嘘じゃないんですが、その前に、「長期的に優良なリターンが見込めること」が大事ってことですかね。主従を取り違えないようにといいますか。

ケイ:はい。良いパフォーマンスを、毎月、毎年と連続して求められるプロの投資家は、長期的に上がるであろう良い資産があっても素直に持ち続けることが難しいという弱点があって、また、彼らにとっては短期のリターン分散が効くクッションを持っておくことは「職業的に」大事なんです。ただ、個人は自分のペースで投資をして、長期でじっくりリターンが出るのを待てる特権を持っているので、プロ向けのアドバイスを、そのまま受け取る必要はない。実は、個人はプロの投資家より、時間軸という点ではかなり有利なんですよね。

繰り返しですが、一番に大事なのは「優良な資産を長期で持つ」という意識です。反対に、賢そうな間違いは「分散効果は完璧だったけど、不良な資産群を持っていた」という感じですね(笑)

社員:ちょっと難しいですが、整理できたと思います。でも、ファインワインは過去リターンが良い優良な資産で、その上、短期的にも他の資産と値動きが異なる(短期の分散効果がある)ってことですから、主従の両方とも優秀だったってことでいいんですよね。

ケイ:はい。その理解で良いです。

そして、先々のファインワイン価格がどうなるか、皆さんが一番気になるところかもしれませんが(笑)、その根本は「投資の本質」に戻ります。ファインワインが、世界中のより多くの人に受け入れられ「人々の豊かさと幸せ」を増やしていくのか、ですね。ファインワイン産業に魅力を感じるのであれば、消費者として「飲む」という形での参加に留まらず、ファインワイン産業に「貯蔵する事業家」として参加するのは、良い選択と思いますよ。投資というのは、ある産業へ事業家として長期で参加し、世の中を豊かで幸せにしていく行為です。そして世の中が豊かになった一部が、利回り(リターン)として返ってくるのです。

また、分散効果という視点については、資産間の短期的な値動きの話だけではなく、その資産の経済的な本質を考えることが大事だと思います。例えば、美味しいブドウが収穫できるかは日照量や天候次第なので、それは株などの価格を決める景気の変動とは異なりますよね。投資というのは、表面的な過去の価格の数値に目が行きがちですが、その背景にある経済的な実態を考えることがより大切と思います。

(続編に続く)

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Profile

WealthPark 研究所 プレジデント(所長)/インベストメント・エバンジェリスト
加藤 航介

日系・外資系の大手投資会社において、ファンドマネージャー、投資啓発などの要職を歴任。英国・米国に約10年滞在し、世界30ヵ国での投資実務を経験。「実体験が大切、自分とアドバイスの聞き手は同じ船に乗る」との考えから、個人資産の運用においても国内外の金融資産、不動産(一棟・区分・海外)、多様なオルタナティブ資産への豊富な実経験を持つ。米国コロンビア大学MBA(経営学修士)修了。米国公認会計士、ファイナンシャル・プランナー、証券アナリスト試験に合格。英国ケンブリッジ大学 Executive Program(GMCA) 2020–2021在籍中。一般社団法人 投資信託協会「すべての人に世界の成長を届ける研究会」客員研究員。


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