お役立ち・トレンド
金融の世界ではよく聞く「信託受益権(しんたくじゅえきけん)」という言葉。
ですが、いざ説明しようとなると、中々難しい……という方も多いのではないでしょうか。
しかし、信託受益権は身近な金融商品にも幅広く使われており、信託受益権を知ることは資産運用にも役に立ちます。
そこで今回は、信託受益権について元信託銀行員のライター・すずきママさんにご解説いただきました。
信託受益権を理解するためには「信託」の仕組みを理解する必要があります。
信託は大きく分けて3つの行為から成り立っています。
①財産を託す
②託された者は財産を管理・運営・処分する
③託された財産から得た利益を給付する
この仕組みを成り立たせるためには、3人の登場人物が必要です。
➀委託者(財産を託す人)
②受託者(財産を託され、管理・運営・処分をする人)
③受益者(財産から得た利益を給付される人)
➀の委託者と③受益者は同一であることもあります。
自分の財産を財産管理のプロである受託者に託し、得た利益を自分で受け取るようなケースです。このような信託を「自益信託(じえきしんたく)」と言います。
自益信託の代表的なケースは投資信託のように投資をしてそのリターンを自分で受け取るようなケースです。
一方、➀の委託者と③の受益者が別人の場合は「他益信託(たえきしんたく)」といいます。他益信託の代表的なケースは孫などにお金を贈与する教育資金贈与信託等があてはまります。教育資金贈与信託については、のちほど詳しく解説します。
委託者と受託者は財産を信託するにあたって信託期間や財産の運営方法、受益者への給付方法などを取り決めて契約を交わします。
受託者は信託契約に基づき財産を運営し、受益者に利益を給付します。その際、受託者は善管注意義務と言われる重い責任が課されます。
善管注意義務とは善良なる管理者の注意義務のことで、客観的に求められる以上の注意を払わなければならないということです。
つまり、受託者は財産管理のプロとして、高いレベルでの業務遂行を行う必要があることを意味します。財産の管理と受益者への利益配分をしっかり行わなければ損害賠償を請求されるなど責任を問われる可能性もゼロではありません。
信託受益権とは、信託契約の受益者が信託財産から発生する利益を受ける権利のことです。
信託受益権を持つ受益者は契約に基づいて財産を管理する受託者に対し、信託財産から得た経済的利益を提供するように求めることができます。また、信託受益権は他人に売却することや担保にすることも可能であり、様々なことに利用できる権利です。
次に財産を信託受益権に転換するメリットを見ていきましょう。
財産を、信託の仕組みを使い信託受益権に転換させるメリットはどのような点があるのでしょうか。確認してみましょう。
信託の機能を使うことで、財産の管理や運用を専門家に任せることができます。
信託期間中は財産の名義は受託者となっており、受託者の判断で財産を売却することも可能です。
財産を信託せずに保有している場合は財産の保有者自身が運用の判断や手続きを行わなければなりません。手間がかかる財産の管理や高度な判断が求められる運用をプロである受託者に任せられることは信託受益権に転換する大きなメリットとなります。
信託受益権は、財産から経済的権利を受ける権利です。信託契約の際に、委託者から受託者に財産の名義が移っていますので、受益者が変更となる場合には名義を書き換える必要がありません。また、委託者から受託者に財産を移る際も信託契約と同時に行うため、大きな手間はかかりません。
そのため、一度信託契約さえ締結しておけば、売買や管理に手間がかかる財産であっても、簡単に手続することができるのです。
信託受益権は私たちの生活の中でどのように活用されているのでしょうか。具体的事例を見ていきましょう。
不動産信託とは、不動産を信託銀行などの不動産のプロに管理・運営を任せてその信託受益権を販売するという仕組みで、投資用不動産等に多く活用されています。
実物不動産を売買すると、仲介手数料や登記費用がかかります。また、不動産の取引は手続きも複雑で手間も多いものです。
しかし、不動産を信託受益権化し売買することで、費用と手間を大幅に削減し、不動産投資のメリットを享受することができます。また、不動産は信託で財産を管理することが向いていると言われている財産です。その理由は後ほど詳しくご説明します。
投資信託は信託を活用した身近な金融商品です。投資信託は株や不動産、債券などあらゆる資産に投資し、受益証券として証券会社や銀行などで販売されています。
受益証券を購入した人は信託の受益権者として、投資した財産から得た利益を享受することが可能です。
投資信託のメリットのひとつは、海外の株や債券など個人では購入手続きが面倒なものを気軽に購入することができる点です。また、多数の人からお金を集めて運用することで、一人一人の投資家は小口であっても投資をすることができます。
教育資金贈与信託とは、孫などに贈与する際、教育資金であれば非課税で一括贈与できる制度です。
通常、贈与をした場合には「贈与税」の課税対象となり、1,000万円を超える贈与はなんと45%以上の贈与税が課税されます。
しかし、この制度を利用する事で1,500万円までであれば教育資金に限り非課税で贈与することができるのです。
子や孫などに贈与する際利用できる制度ですが、高齢者から若者への財産移転を目的としているため、祖父母から孫に贈与するケースが多い制度です。
贈与した資金は信託銀行で管理され、教育資金として必要な時に受益権者である孫に払い出されます。
教育資金贈与信託は財産を管理し適切なタイミングで受益者に払い出す信託の機能を活用した制度です。
信託は不動産と相性が良いと言われています。その理由は大きく分けて3つあります。
1つ目の理由は不動産は価格が大きく、小口の投資家にはなかなか手が出せない投資対象だからです。しかし、不動産を信託の仕組みを使って信託受益権にすることで、小口販売することが可能となります。
例えば、10億円の不動産でも1,000人の投資家を集めることで、1人100万円で投資をすることができます。
2つ目の理由は、不動産は管理に手間とノウハウがいるということ。
手間とノウハウがいるものは信託の機能を使ってプロが管理するメリットが大きくなります。
3つ目の理由は、不動産の特徴が「安定した賃料収入」だということです。
信託機能を活用することで長期間財産を管理して継続して受益権者は収入を受け取ることができます。定期収入を複数の人に分配するということも信託を使えば比較的簡単に実現できるのです。
信託受益権について解説しました。信託の機能はさまざまな商品で活かされています。信託を理解するうえで欠かすことができないのが信託受益権です。
財産を保有せずに利益を得ることができる信託受益権。保有することで起こるさまざまな問題を信託の機能を活用した信託受益権は解決してくれます。
また、信託の機能を活用するうえで最も相性が良い財産は「不動産」です。
信託の機能は不動産の「安定的な賃料収入」という最大の特徴を活かし、「規模が大きい」、「運用にノウハウがいる」などのデメリットを打ち消すことができます。
そのため、不動産の信託受益権を保有することは非常にメリットが大きい投資と言えるでしょう。
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ライター
すずきママ
元信託銀行員でFP2級、簿記2級保有。現在はママさんライターとして二児の子育てをしながら金融記事を中心に執筆活動中。大学在学中から投資に興味を持ち、投資信託、ラップ口座、外貨預金、変額保険、仕組債などで資産運用を経験。