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サスティナブル・ホテルという言葉をご存知でしょうか?
サスティナブル・ホテルは、現代の環境への意識の高まりから注目されている新しいホテルのかたちです。こうしたホテルができることで、盛り上がりを見せている地域があります。
ライターの伊藤将人さんに、長野県池田町の八寿恵荘の例を取り上げながら、サスティナブル・ホテルについてご解説いただきました。
2015年9月、国連サミットで社会課題の解決に向けて採択されたSDGs(持続可能な開発目標)を達成するための動きが、世界中で進行しています。
また、人々の消費の対象は、地球にも自身の身体にもよい影響を与えるものへとゆっくり移行しています。このような時代の流れの中で注目されているのがサスティナブル・ホテルです。
本記事では長野県池田町にある日本で初めてBIO HOTEL認定を受けたサスティナブル・ホテル「八寿恵荘」のケースを例に、サスティナブル・ホテルの可能性に迫っていきます。
サスティナブル・ホテルは「社会課題の解決=社会/地球の持続性」と「身体の持続性」に配慮したホテルを指す概念です。サスティナブル・ホテルと一口に言ってもその理念とスタイルは多岐にわたるため、ここでは2つのタイプを簡単に紹介します。
エコフレンドリー・ホテルとは、環境に配慮したホテルを指す概念です。1994年にデンマークのホテル・レストランなどの業界団体が中心となって始めたエコラベル事業により、世界的な認証制度も確立されています。
古材を再利用した家具、リサイクル品、電力時給、詰め替えや簡易包装などによる固形廃棄物の削減、節水、過度な暖房利用の制限などを実践することで環境に優しい運営を行っているのが特徴です。
BIO HOTEL(オーガニック・ホテルの意味)は、環境・宿泊者の健康・持続可能性などに意識を向けるホテルを指します。
ドイツ・オーストリアを発祥とし、2001年にはDie BIO HOTEL(ビオホテル協会)も発足。国内団体であるBIO HOTELS JAPANは、ヨーロッパビオホテル協会の公認を受け、日本で2013年5月に発足しました。
BIO HOTELは環境やオーガニックの観点から策定された厳格な基準のうち、3つの以上を満たしていなければ認証されません。基準の一例は、以下の通りです。
BIO HOTEL認証をアジア・日本で初めて受けたのが、今回取り上げる「カミツレの里 八寿恵荘」です。
八寿恵荘は、長野県北安曇郡池田町の山間の地域にあるサスティナブル・ホテルであり、もともとは農薬不使用カモミールの商品開発で知られる株式会社カミツレ研究所の保養施設としてつくられました。
総面積4万坪の敷地内にはホテル、有機カモミール農園、工場、有機野菜の畑があり、カモミールを用いた入浴剤やスキンケア商品を製造・販売しています。
八寿恵荘は、2015年5月にリニューアルオープンした際にBIO HOTELとして認証されました。リニューアルオープン以降は年々宿泊者数も増加しており、リニューアル当初は行っていなかった冬場の営業も2019年度から段階的にスタートさせているとのこと。
女性向け雑誌やライフスタイル系雑誌に数多く掲載されてきたことで、県内外のオーガニック・エコ・サスティナブルライフに興味関心ある人たちが主な宿泊者となっています。
ここからは筆者が過去、八寿恵荘を運営する株式会社Sougo代表・北条裕子さんに取材した内容をもとに、日本を代表するサスティナブル・ホテルの特徴とこだわりをみていきます。
https://colocal.jp/topics/think-japan/journal/20151117_57729.html
八寿恵荘では、提供する料理をできる限り地元産の食材にすることにこだわっています。自社農園で採れた野菜、地域の契約農家が育てた有機米や有機野菜も使っており、多くの地域内事業者と連携しています。地域で採れたオーガニック食材を積極的に使うことで地域経済を活性化させるとともに、輸送にコストをかけないことで環境に配慮し、身体にやさしい消費活動を達成しています。経済的にも環境にも身体にも持続可能な構造をつくることでサスティナビリティを担保しているのです。
八寿恵荘では各部屋にテレビを設置していません。その理由について代表の北條さんは以下のように説明します。
「八寿恵荘では、部屋にテレビを置いていません。年配のご夫婦がたまに『なんでないの?家族と話すことないわ』と言われているのですが、帰るころにはお話しされているんですよね。これが私たちの狙いあり、置いてなくてよかったと思う瞬間です」
テレビがない生活は考えられない人も多い現代において、宿泊した人が不便であることや「ない」ことを体験することには大きな意味があります。テレビがないからこそ家族との会話が生まれ、不便であること・物が無いことが魅力と感じるような新しい価値観を得られるのです。
「モノがあればあるほど幸せな社会」から「モノがなく不便でも実は幸せ」だと思える社会へのきっかけが、サスティナブル・ホテルである八寿恵荘にはあります。
毎年6月に開催される八寿恵荘主催の花まつりには地域の人も多く参加しています
八寿恵荘は、立地する池田町や池田町広津地区との交流に積極的です。毎年5月~6月に開催される花まつりでは、地区の人たちが地元の名産品であるおやきを提供しており、宿泊者が八寿恵荘をきっかけに地域の魅力を知る機会を作っています。
また、八寿恵荘では社員と地区の人たちが交流する機会を定期的に設けることで、社員全員が「池田町・広津地区にある八寿恵荘」という感覚を持ち、地域にとっても八寿恵荘にとってもWin-winな判断を行うことができるようになっています。地域との共生、これもサスティナブル・ホテルでは欠かせない要素です。
SDGs、脱消費社会、エシカル消費などの推進と相まってサスティナブル・ホテルのニーズは世界中で高まっています。
Booking.comが2019年に実施した世界的なサスティナブル・トラベルに関する調査では、旅行者のおよそ4分の3(72%)が「次世代のために地球を守るには、人々は今すぐ行動しサスティナブルな選択を行う必要がある」と回答しています。
しかし、日本は他国と比べるとサスティナブルな選択の必要性を感じているのは半数以下の40%のみとなっており、グローバルスタンダードからの遅れを痛感せずにはいられません。
また自分がエコな宿を探しているかを問わず、「宿がエコに配慮していることを知った場合、その宿を予約する可能性は高くなるだろう」と答えた旅行者は全体の70%を占めました。
しかし日本人だけで見ると宿のエコ配慮の有無による宿の予約の可能性は、36%と低い傾向にあります。
日本においてサスティナブル・ホテルはまだ認知度の高いものではなく、数自体多くありません。バックパッカーや外国人旅行者向けの安価なゲストハウスが増えている一方で、宿泊業界が重要視すべきは「コストパフォーマンスの高さではなく、サービス相応の金額を適正に払ってもらうこと」です。質の高いサービス、環境や身体への配慮を継続していくためには適正な宿泊価格の設定が欠かせません。八寿恵荘も周囲の一般的な宿泊施設と比較すると約2倍の価格設定となっていますが、徹底したオーガニックへのこだわりとおもてなしによって多くの方がリピーターになっています。
サスティナビリティを論じる際、環境面のサスティナビリティがクローズアップされることが多い一方、マネタイズのサスティナビリティはあまり注目されない傾向にあります。
しかしサスティナブルな社会を作っていくためにはどちらも欠かせません。地域環境や宿泊者の身体にとってサスティナブルは取り組みを続けるためには、マネタイズのサスティナビリティを妥協してはならず、宿泊者はサービスの質の裏側を想像しなければならないのです。
もともとエコやオーガニック・サスティナビリティに興味関心ある層以外にも広め、日本全体のサスティナブル・ホテル数を増やしていくためには、この点の周知が必要です。サスティナブル・ホテルは私たちが新しい価値観の体験をするきっかけを今後も与えていくでしょう。
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まちづくりライター
伊藤将人
1996年長野県生まれ。一橋大学社会学研究科にて地方移住と観光に関する研究を行いながら、KAYAKURA代表として長野県内外で観光インバウンド・移住・まちづくりのコーディネート・調査・PRを手がける。訪日観光客向けWebサイトNAGANO TRIP、地域考察WebメディアKAYAKURA運営。週刊SPAや公益社団法人 日本観光振興協会発行『観光とまちづくり』など執筆多数。東京都国立市と長野県の2拠点居住中.Twitter@ito_masato
本記事のインタビュー部分と写真は、信州池田活性化プロジェクト「Maple Tree」が発行するフリーペーパー『いけだいろ』2号、18号の筆者記事より引用しています。