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実際にマンションやアパートを購入する「実物不動産投資」だと、数百万円から多いと数億円の資金が必要で、誰でも気軽に始められるものではありません。
ただ、同じ不動産投資でもREITや不動産クラウドファンディングは数万円程度の少額から始めることができます。
今回は、少額で始められる不動産投資の種類とそのリスクについて、不動産ライター・亀梨奈美さんの解説です。
不動産投資を始めるには、数百万円~数億円する投資物件を購入し、そのためにローンを組み、賃貸経営をして……といったことをしなければならないと考えていませんか?
もちろんこれが、不動産投資の“王道”ともいえるスタイルでしょう。しかし実は、物件を購入しなくても不動産投資は可能です。
投資物件を購入せず、少額から始められる不動産投資方法は、大きく分けて次の3つがあります。
いずれの不動産投資も少ない元手で気軽に始められるとあり、近年、注目されていますが、リスクゼロの投資はありません。
本記事では、少額から始められる3つの不動産投資方法の特徴とリスクについて解説していきます。
物件を購入して運用していく投資スタイルを「実物不動産投資」と言うのに対し、物件を購入せずに少額から始められる不動産投資を「少額不動産投資」と言います。
まずは、両者の違いを簡単に説明します。
実物不動産投資を行うには、最低でも数百万円単位、投資物件の立地や規模によっては数億円の資金が必要です。なかなかキャッシュで物件を購入できる人はいないため、実物不動産投資では、不動産投資ローンを組むのが一般的です。
融資を受けておこなう投資は、いわゆる「レバレッジ効果」によって大きな資産を生み出すことも可能ですが、金利を含めた毎月のローン返済の負担があるため、「キャッシュフロー=手元に残る収益」を大きくするのは難しくなります。
また融資を受ける際には、金利上昇リスクや返済不能となるリスクについても危惧されます。
実物不動産投資の利益となるのは、毎月の家賃収入だけではありません。投資物件を売却したときに利益が出る、あるいは損失が出ないように利益を確定するためには、賃貸物件としての収益性のみならず、長期的に資産価値を維持できるかも見極めなければなりません。
実物不動産投資のメリット
実物不動産投資のデメリット
まとめると、実物不動産投資には上記のようなメリット・デメリットがあるといえます。
少額不動産投資の方法は1つではなく、大きく分けて次の3つの方法があります。
それぞれの投資の詳細については後述しますが、いずれの少額不動産投資も「出資する」ことで、収益の一部をリターンしてもらうという不動産投資です。
商品にもよりますが、1口1万円ほどから購入できるものもあり、収入や年代問わず、誰でもチャレンジしやすい投資だといえるでしょう。また実際に不動産を運用するのは、投資先の“プロ”であるため、不動産投資初心者にとっても敷居が低い投資方法です。
投資額が大きく、大きな資産を築くことも可能な現物不動産投資と比較して、少額不動産投資は見込めるリターンも少額です。
とはいえ、投資額や投資先は自由に設定できるので、リスクを分散させながら大きなリターンを得られる可能性もあります。さらに少額投資であれば融資を受ける必要がないので、投資におけるリスクは相対的に低いといえるでしょう。
先述した実物不動産投資のデメリットとなる「投資額大きい」「融資を受けることにおけるリスク」「物件選びが難しい」という点が解消できるのが、少額不動産投資の魅力。
ただ、繰り返しにはなりますがリスクのない投資は存在せず、少額不動産投資についても、商品の特徴や想定しうるリスクをしっかり認識しなければなりません。
それではここからは、3つの少額不動産投資方法の特徴とリスクについて解説していきます。
「REIT(リート)」とは、投資法人が複数の投資者から出資金を募って不動産投資を行い、収益を出資者にリターンする金融商品です。1960年代にアメリカで誕生したREITですが、日本で市場が創設されたのは2001年と比較的近年のこと。日本では、「日本版REIT」という意味合いで「J-REIT」と呼ばれます。
J-REITの投資法人は証券取引所に上場しているので、上場株式と同様に取引できるという点が大きな特徴です。
・少額から投資可能
商品にもよりますが、J-REITは1口1万円ほどから設定されています。1口単位で購入可能です。
・リスク分散できる
実物不動産投資は、数百万円以上もする物件を購入し、運用しなければなりません。同じ出資金でも、REITなら複数の商品に分散させることができ、リスクが軽減されるといえます。
・専門家による運用
実際に不動産の運用を行うのは、不動産投資法人のプロです。株式同様、自身で銘柄を選択する必要はありますが、物件選びや収益シミュレーション、賃貸経営など、実物不動産投資のような手間はありません。
・高利回りが期待できる
REITは、不動産の売却益ではなく、賃料収入を主な原資としています。J-REITの仕組み上、投資法人は、収益の90%以上を投資家に分配するなどの要件を満たすことで、法人税がかからないため分配率が高く、高利回りが期待できます。
・節税も期待できる
J-REITは、NISAの対象商品です。そのため、年間120万円までの利益を非課税とすることができます。
・流動性が高い
実物不動産は、売りたくてもすぐに買い手がつくとは限りません。一方、J-REITは、株式のようにいつでも市場で売買が可能で、流動性が高い投資だと言えます。
株式投資のように市場で取引可能で、銘柄選びができるJ-REIT。リスクについても、株式取引と同様のことが想定されます。
・倒産や上場廃止のリスク
REITの出資先は、不動産投資法人です。法人である以上、倒産したり上場廃止したりするリスクがあります。そのため、投資する案件のみならず、投資法人自体の業績等もよく見極めることが大切です。
・自然災害リスク
REITの分配金の原資となるのは、不動産の賃料収入です。万一、対象物件が震災や火災などで被災すれば、賃貸物件としての維持ができなくなる・空室増加・賃料下落などが起き、分配金が減少するリスクがあります。
・価格や分配金の変動リスク
REIT価格と株価の相関性は、高い傾向にあります。
<2019年4月28日~2020年4月28日の東証REIT指数推移>
<2019年4月28日~2020年4月28日の日経平均株価推移>
上記グラフをご覧いただければわかるように、昨今の“コロナショック”によって、株価、東証REIT指数、ともに大きく値を下げています。不動産投資信託のみならず、実物不動産自体の価格も、基本的には株価に追従するものです。
また、株価も不動産価格も、金利の緩和・引き締めの影響をダイレクトに受けるため、REITにおいても金利上昇によるリスクは大きいといえます。
さらにREITの運用資金は、投資家のみならず金融機関からも借り入れているので、金利が上がれば単純に収益が下がってしまい、分配金が少なくなってしまうこともあります。
REITは不動産投資法人への出資ですが、「不動産小口化商品」は、実際に不動産のオーナーとなる権利を有することができる商品です。たとえば、不動産を1人で購入して運用とすれば1億円かかる物件も、不動産を小口化して100人で投資すれば、1人100万円の出資金となります。
このときの出資対象となるのは、REITと違い物件の一部。つまり、不動産小口化商品とは、複数の投資家で所有権を共有するという不動産投資です。
不動産小口化商品のメリットの多くは、物件の所有権を得ることに起因するものです。
・物件の所有者になれる
出資金を不動産投資法人に“託す”かたちのREITと違い、不動産小口化商品を購入することにより、物件の“所有者”となれます。特定の不動産を選定して所有権の一部を購入するため、より実物不動産投資に近い感覚を持つことができるでしょう。
・専門家による運用
物件の所有者になるとはいえ、実物不動産投資のように自身で運用はおこないません。
不動産小口化商品の販売や運用、収益の分配をおこなうのは不動産特定事業法(不特法)によって認可を受けた事業者です。事業者は、不特法に則って物件の管理まで行ってくれるため、投資家は手間がかかりません。
・相続対策にも
不動産の所有権を有することができる不動産小口化商品は、相続税対策ともなります。不動産は、相続時、現金のおよそ7~8割ほどの評価となるため、一定の節税が見込めるのです。
一方で、物件の所有権を得るからこそのリスクも考えられます。さらに、不動産小口化商品が、いまだ大衆向けの商品ではないことから生じるリスクにも気を付けなければなりません。
・商品が少ない
2001年に始まったJ-REITは随分と選択肢が増えてきましたが、不動産小口化商品についてはまだまだ商品数が少ないのが現実です。また商品が出たとしても、希少性の高さから、すぐに完売してしまうケースも少なくありません。
・賃料収入保証はない
REITは株価や金利の動きに敏感な商品ですが、特定の不動産に対して出資する不動産小口化商品は、物件自体の需要や周辺環境に大きな影響を受けるといえるでしょう。
不動産小口化商品は、元本保証も賃料収入保証もないため、現物不動産投資と同様に、物件を見極める目が必要になります。
・流動性が低い
不動産小口化商品のマーケットは小さい上、“所有権の一部”という商品特性上、手放しにくいという側面を持っています。
投資において、「手放したいときに手放せない」ということは、致命的な損失につながってしまう可能性もあります。実物不動産投資にも同じことがいえますが、不動産小口化商品も手放すときのことも考えて、長期的に資産価値が低下しない商品を選択することが大切です。
「不動産クラウドファンディング」は、少額不動産投資の中で最も歴史が浅い投資方法です。
そもそも「クラウドファンディング」とは、群衆(crowd)からの資金調達(funding)という意味で、主にインターネットを通して、不特定多数の人に資金提供を求めることを言います。
不動産クラウドファンディングで出資を募るのは、大手ディベロッパーや実績のある投資法人ではなく、新規参入の事業者による革新的なアイデアを伴うプロジェクトや、空き家再生プロジェクトなどが中心。
起案者に賛同すれば誰でも少額から支援できるという不動産クラウドファンディングの仕組み上、従来まで投資法人として参入できなかった事業者も、出資を募り、事業を拡大させていくことが可能になったのです。
不動産クラウドファンディングの魅力は、新しい試みへの挑戦に対して“応援”や“貢献”ができることです。従来までの不動産投資とは異なり、自分の“想い”も投資できると言えます。
もちろん投資ですから、“想い”のみならずリターンも重要。不動産クラウドファンディングのリターンは比較的安定しており、非金銭的な価値の提供を受けられるケースがあることも、大きなメリットだと言えるでしょう。
・投資先が選べる
不動産クラウドファンディングは、“不動産”というよりも“プロジェクト”に対して出資するイメージです。
たとえばクラウドリアルティで出資を募り、現在運用中の「渋谷区上原シェア保育園ファンド」は、待機児童の多い渋谷区・世田谷区を対象エリアとする保育園建設プロジェクトです。
起案者・学校法人正和学園の「社会の持続性や、社会保障費の増大による行政の硬直化に対応できる答えは未だ見えない中、まちづくりや子育てを支援したい」という“想い”に賛同した多くの出資者により、1億7,400万円が集まりました。
もちろん、起案者の想いとともに、投資対象や分配方法、想定利回りなどを確認した上で出資が可能です。
物件情報のみならず、起案者の声や出資を募る背景などを知ることで、ともにプロジェクトを邁進する同志のような気持ちを持つことができます。
・変動幅が小さい
特定のプロジェクトに対して出資する不動産クラウドファンディングは、株価や金利の動きに大きな影響を受けず、運用期間も比較的短いため変動幅が小さいといえるでしょう。その一方で、運用がうまくいけば、想定以上のリターンを得られます。また、リターン以外に“特典”がもらえることも。
たとえば、クラウドリアルティで出資を募った「京都町家再生プロジェクト」では、出資金額に応じて、再生する宿泊施設のの宿泊割引券が交付されました。
・社会貢献の側面も
不動産クラウドファンディングのプロジェクトには、先述した保育園建設や古民家再生、空き家を活用など、社会貢献につながるものが多くあります。
不動産クラウドファンディングも、他の不動産投資同様に一定のリスクがあります。
・元本割れのリスク
どんな投資にもいえることですが、不動産クラウドファンディングにおいても、自然災害やプロジェクトが計画通り進まないことなどにより、元本割れを起こしててしまうリスクがあります。
・倒産リスク
不動産クラウドファンディングの出資先は、非上場企業や小規模事業者であることも多いため、事業者の業績悪化や倒産によって貸し倒れが発生するリスクが比較的高いと言えるでしょう。
・流動性が低い
不動産クラウドファンディングのプロジェクトの多くは、運用期間があらかじめ設定されています。出資後は原則的に解約できず、権利を売却することもできないため、その他の不動産投資方法と比較して流動性は低いと言えます。
いずれの少額不動産投資にも、メリットとともにリスクがあります。
リスクを回避するには、物件や事業者を見極めること。そして、リスクを分散させることが大切です。
少額不動産投資の注目度は年々高まっており、人気の銘柄や物件はすぐに売れてしまうことも散見されます。
実物不動産投資と比較して敷居が低く、リスクも比較的低い少額不動産投資ですが、確実に利益につなげるために、情報を収集し、投資先を見極めましょう。
【投資初心者必見】NISAや積立投資といった、まず知っておくべき情報配信中!
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不動産ライター
亀梨奈美
大手不動産会社退社後、不動産ライターとして独立。在籍時代は、都心部の支店を中心に契約書や各書面のチェック、監査業務に従事。プライベートでも複数の不動産売買歴あり。業界に携わって10年以上の経験を活かし、「わかりにくい不動産のことを初心者にもわかりやすく」をモットーに不動産記事を多数執筆。