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中澤美菜子

株でストレスをためた私が紆余曲折を経て不動産投資を選んだ理由(前編)

株が向かなかった理由、不動産投資が向いていた理由とは?

ひとくちに資産運用・投資と言ってもその手法は様々です。今回は、社会人になってすぐ株式投資デビューをしたもののストレスの原因となり続かず、最終的に不動産投資を選択した女性に、そこに至るまでの経緯を前後編で綴っていただきました。

【参考】株でストレスをためた私が紆余曲折を経て不動産投資を選んだ理由(後編)

目次

資産運用は恋愛に似ている

資産運用は、恋愛にとてもよく似ている。世の中にはたくさんの人が存在し、当たり前に顔も背格好も性格も違う。その中からたったひとり、自分の愛する人に出逢うのだ。そこに至るまでのドキドキやときめき、その後の関係性をつくるまでの楽しさや葛藤、そして行き着く安心感。資産運用を通して、私はこれとほぼ同じ気持ちを味わっている。

私は今、マンションの一室を投資物件として所有しており、それが私の資産運用の基盤になっている。ここに至るまで、一通りの投資商品を試し、苦い思いもした。良いと思っても自分には合わなかったり、気を揉んだり。かと思えば、成功したと思い気分が高揚したりうれしかったりと、日々一喜一憂した。

まるで彼氏に翻弄される、恋する乙女みたいに。

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ひとくちに資産運用と言っても、運用に対する考え方、対象とする投資商品、運用方法は無数にあり、今の時代は容易に多くの情報が手に入る。専門家やその分野で成功した人が様々な意見を語っている。

でも結局は「自分が愛せるのか」の選択なのではないかと思う。株式投資だったら、保有する企業とその事業や人に想いを寄せ、どんな状況でも応援できるのか。不動産投資であれば、その物件やエリア、そしてそこに住まう人を自分ごととして捉え、より良い住環境を叶えることができるのか。愛せるかの根本は、単にお金が増えた減ったという結論ではなく、そこにたどり着くまでのプロセスにあるのではないかと考えている。

そんな私が恋する乙女になって辿り着いた、等身大の資産形成の道のりを紹介してみようと思う。

社会人になればお金持ちになれる…?

社会人になれば、仕事をしてお金を稼いで、もれなくお金持ちになれると思っていた私。憧れていた洋服・コスメを買って素敵なキャリアウーマンになるんだ、と。でも入社が近づくにつれ、私の楽しい妄想は不安へと変わっていった。

不安の始まりは、ある日手取り額と支出を同期の友人と計算したこと。実家が地方の私は、都内でひとり暮らしをすると、家賃だけで8万円前後かかる。オフィスから遠く、もっと家賃を抑えられる場所に住むという選択肢もあるが、毎日満員電車で長時間通勤するなんて考えられなかった。家賃だけではない。水道やガスなどの光熱費、携帯代などの固定費で約2万円。毎日ランチを買って食べるとすると月2万円くらい……。

これだけでもう12万円が消える。それにふだんの食費、交際費、洋服代、欲しいものもたくさんある。旅行にだって行きたい。あれ……そうすると手元に残るお金って……?

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キラキラ輝いて見えた社会人生活に暗雲が立ち込め、お金持ちになるはずだった私は、お金への不安を抱いたまま社会人になった。

従業員持株制度で株式投資デビュー

そして2009年4月。晴れて大手不動産情報サービス会社に入社した。お金への不安も抱えていたが、憧れた社会人生活は毎日が新鮮で、私は仕事に熱中した。大変なこと、うまくできないこともたくさんあったけれど、純粋に新しいことにチャレンジできる毎日は、私に充足感を与えてくれた。ただ、心のどこかがそわそわする。それはやはりお金への不安だったのだ。足りていないわけではなく、遊びにも行くことができるし、おいしいごはんも食べることができる。ただ、増えていかないどころか友人の結婚式や旅行で目減りしていくお金に、常に漠然とした不安感が晴れることはなかった。

ある日そんな不安を、私がとても尊敬していた先輩に話したことがあった。すると先輩は「会社に『従業員持株会制度』があるから、始めてみたら?」とアドバイスしてくれた。

あ〜、なんか入社時に説明受けたかも。でも株って損するかもしれないし、そもそもよくわからないし……。そんな私の思いを見透かしたように、先輩は続けた。

「株で得をする損をするというのは結果論でしかないの。それよりも、株を持つことでその会社を知りたくなるでしょ? 会社を知るためには社会を、経済を、世界を知りたくなる。だから勉強するためにも自社株買ってみたらいいじゃない。それでお金も増えたら嬉しいでしょ」

「勉強にもなって、お金も増えるって最高ですね!」

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単純な私は、その言葉に感銘を受けてしまった。「これ!」と思ったらすぐに行動に移さないと気が済まない私はその足で総務部に行き、従業員持株会の加入申込書をもらった。自社のその日の株価も、持株会の仕組みもわかっていなかったけれど、「まず加入することに意味があるから!」なんて楽観的に考え、翌日には加入届を提出し、株での資産運用の第一歩を踏み出した。入社1年目の初冬のことだった。

上がる株価、増す不安

私が株を始めた2009年、リーマン・ショックの影響を受けて、日経平均株価は安値で横ばいしていた。そんな時代に、毎月手元に残るお金とのバランスを考えて口数を決めてコツコツ株を買っていった。今月はがんばってお弁当を作ってお昼代が浮いたからこのくらいは株に充てられるかな。今月は彼の誕生日があるからこのくらいにしておこう、といった具合に。

それまでは新聞も経済誌も、興味のある記事があるときしか手に取らなかった私が、毎日、新聞に目を通すようになった。よくわからないなりに、株価もチェックするようになっていた。

そうしていると面白いもので、同じように株を運用している人や、資産運用をしている社内の人とお金の話で盛り上がるようになった。

「今はたくさん買っておいたほうがいいよ」というアドバイスや、「FXの方が儲かるよ」といった新しい情報を教えてくれる人など、いろいろな人からたくさんのお金の話が耳に入ってくるようになった。

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「私、なんか投資家っぽい」

今の自分が聞いたら恥ずかしいようなことを思っていた。

それから2年くらい経った2012年頃、日経平均株価は回復傾向にあり、自社の株価も上がり始め、社内でも連日株価が話題に上がるようになった。

当時、社内にはデジタルサイネージがあり、毎日のお知らせとともに、株価も表示されていた。嫌でも数時間おきに目に入る株価。「あ、上がってきている」と、胸がドキドキしていた。でもそのドキドキは高揚感とは少し違っていた。いつ売却していいかわからないという不安感からのドキドキだった。

「今売ったらこのくらい儲かるけど、でも明日はもっと上がるかもしれない」

答えは、新聞を読んでも、経済誌を見ても、もちろん誰に聞いたってわからない。株価の値上がりに反して、私の気持ちはなんだかどんよりしていた。「誰か答えをちょうだい!」と叫びたい気持ちになった。

ちょうどその頃、借りている家の更新時期が来た。家賃が2ヶ月分必要になる。旅行に行く予定もあったので、手元のお金は減らしたくなかった。今かもしれないと思った。株を売って、現金化しちゃおう、と。毎日にらめっこ状態のデジタルサイネージに表示される株価を見て、今上がっているし、答えは考えてもわからないし、今お金が必要だし。今だ、今だよね! と自分を何度も説得した。仕事しなさいって、自分に突っ込みたくなるくらい、そのときの私は株のことで心を乱されていた。

株を売った数日後のできごと

明確な根拠もなく、今思うと意味のわからない理由で自分を納得させ、遂に私は持っている株の一部を売却することにした。

ひとり暮らしの部屋でパソコンを開き、パスワードを入力するとき「本当にこれでいいのか?」という気持ちが一瞬よぎった。けれど、もう決めたのだ。慣れないネット証券の画面で売却する株数を入力した。後は迷わないうちにと思って事務的にボタンを押し、手続きを済ませた。あんなに悩んだのが嘘のように、ネット上での売却は驚くほどあっけなく終わった。そして私はそっとパソコンを閉じて、これで良かったよね、と自分に言い聞かせた。手出しより増えた金額を得ることができていた。そのときは嬉しいというより、安堵感の方が優っていたように思う。損をしなくてよかった、と。

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当初は、損得よりも勉強になるから、と始めた株の運用だったが、手元の増えたお金を前に、そんな気持ちはとうの昔に忘れていたことに気づいた。

なんとも言えない気持ちのまま、私は部屋の更新書類を記入し、お金を振り込んだ。

その数日後、社内のデジタルサイネージに数時間おきに表示される株価はより高値を記録し、私の心はますます荒んでいった。「あーあ、今売っていたらもっと増えたのに」。無駄に後悔して、何だか全てがつまらなく思えた。

私はそれから株を買うのも、新聞を毎日読むことも、目に入る株価に気を揉むこともやめた。自分でもとっても呆気ないなとあきれたけれど、私は株で儲けるどうこう以前の問題で、乱高下する自分の気持ちに耐える強さを持ち合わせていないことに、この経験から気づいてしまった。

「私の心を乱さないで!」と、デジタルサイネージに表示される株価に背を向けた。新聞だって、雑誌だって、友人との雑談だって、私にはお金以外に関心があることが本当はたくさんあったのだ。恋愛のこと、ダイエットのこと、おしゃれのこと、海外旅行のこと、キャリアのこと。

きっと無理をしていたのだろう。反動から、お金のことってなんて面倒なんだろうと一気に興味を失った。好きで毎日食べていた物に急に飽きて、食べたくなくなる感じに似ているな、なんて呑気なことを考えていた。

自分でもその潔さに驚くくらい「株の運用は向いていない」と見切りをつけ、ネットの証券口座を確認することもなくなった。お金への不安は無くなってはいない。でもそれに反して、私の心はなんだか晴れやかだった。

「どんな家に住みたい?」という問い

当時、私は大手不動産情報サービス会社で、不動産投資会社と組んで仕事をしていた。担当する不動産投資会社の集客を強化するため、毎月様々な会社さんと100名くらいのセミナーを開催する。そんな仕事だったので、資産運用のいち手段として不動産投資があることは知っていたけど、様々な情報を聞くたびに不動産投資とはなんと難しいものなんだろうと、自分とは縁遠い話だと思っていた。

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金額も大きいし、難しいし、それに何か怖い。

ある日、ある不動産投資会社との打ち合わせ。担当者は私と年が近く、自ら不動産投資もしていた。雑談の中で、私は自分の株での失敗談を話し、「資産運用に向いていなくて」と話した。

するとその担当者は突然、私にこんなことを質問してきた。

「中澤さんならどんな家に住みたいと思いますか?」

この言葉が、株で疲弊した私が、不動産投資への一歩を踏み出すきっかけとなった。

株でストレスをためた私が紆余曲折を経て不動産投資を選んだ理由(後編)


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Profile

マネーライフプランナー
中澤美菜子

新卒で大手不動産情報サービス会社のLIFULLに入社し、不動産投資部門を担当。現在は外資系保険会社で、顧客の個人のライフプラン設計などを行う。個人で実物不動産投資をしている経験から、資産運用の相談に乗ることも。note:minakonakazawa


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