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働き方改革や地方創生の流れで注目を浴びる二地域居住。国土交通省の『二地域居住に対する都市住民アンケート調査結果』(2004年)調査によると、首都圏に住む人の中でおよそ半分が都市と地方の二地域居住に興味関心があると回答しています。
二地域居住にはさまざまなメリットデメリットがあります。「どこに拠点を置くのか」「どのようなワークスタイル/ライフスタイルか」「家族構成」などでメリットデメリットは変わってきますが、今回は東京と長野県で二地域居住を実践するライター・伊藤将人さんに、実践してみて感じるメリット・デメリットをご紹介いただきました。
二地域居住を制度面から支援する国土交通省によると、二地域居住とは「都市と地方部に2つの拠点をもち、定期的に地方部でのんびり過ごしたり仕事をしたりする新しいライフスタイルの1つ」を指します。国は地方における定住人口や若者の数を増やすための方法の一つとして二地域居住を推進することで、都市と地方の人口バランスを是正することを目指しています。
二地域居住は文豪が生活の場と仕事のためにこもる温泉宿を使い分けていたのに近い感覚があります。私は、東京居住時は東京にいないとできない企業との打ち合わせや研究を行う時間、地方居住時は地方自治体との打ち合わせやゆったりする時間としています。
平日都会で仕事をしている脳のまま土日に都会で休んでいても、心身があまり休まらないような感覚の人もいるかと思います。二地域居住によって強制的に暮らす場所を変えることで、仕事のときは仕事、休みのときは休む、もしくは都会にいるときは都会の仕事、地方にいるときは地方の仕事というカタチでメリハリのある生活が送れるようになります。移動時間が増えることで使える時間は減ることもありますが、その分だらだらせず仕事の質も高まるような感覚もあります。
人は長期間同じ環境に身を置いていると、気付かないうちに視野が狭まり価値観やスキルが固定化します。グローバリゼーションによって人とモノと情報のモビリティが高まり多様な価値観を持った人々が行きかう時代に、視野が狭まり価値観やスキルが固定化することにあまりプラスではありません。
二地域居住によって定期的に異なる文化や価値観に触れることで、今まで気がつかなかった視点や感覚を身につけることができるようになります。特に都市にいながら地方を相手に仕事する人や地方にいながら都市を相手に仕事する人は、相手の立場に立つことが必要不可欠です。二地域居住はビジネスを成功させるためにも効果的な選択肢といえるでしょう。
二地域居住を実践することで人とのつながり(社会的ネットワーク)は広がります(家にこもっている場合は別)。冷戦終結後グローバル化の波の中で注目される社会学の「弱い紐帯の強さ」という概念によって、多様な人とのつながりが重要であることが明らかになっています。
社会学者M, グラノヴェッターは、転職する際に誰のアドバイスや勧めが参考になったかを約280人に調査しました。その結果、強い紐帯で結ばれた間柄の人よりも、弱い紐帯の間柄の人からのアドバイスのほうがより参考になったという調査結果が出ました。 強い紐帯で結ばれた間柄の人は自分と似た価値観で暮らしているため、目新しいアイデアが出てきにくい一方、弱い紐帯の間柄の人は、よくも悪くも無責任に新しいアイデアを提供してくれる可能性が高いため、結果的にこれまでの価値観では出てこなかったアイデアをもたらすのです。
二地域居住は強い紐帯で縛られた日常から自身を解放し、新たな出会いやアイデアをもたらす弱い紐帯を構築する可能性があります。二地域居住はビジネスのみならず、恋愛や趣味などさまざまな面で新しい発見をもたらし人生を豊かにするのです。
私が二地域居住をはじめて最も驚いたのが交通費です。新型コロナウイルス感染症流行前は、毎週東京と長野県を特急もしくは高速バスで行き来していましたが、単純計算すると1か月で1往復(往復約1万円)×4週=4万円、1年間で約48万円交通費がかかることになります。
二地域居住を実践する前に「どの交通手段がどの程度お金がかかるのか」「どの交通手段だと最も安く行き来できるのか」「各交通手段の頻度と乗り心地」をしっかり調べたうえで拠点を決めることをおすすめします。私は乗り物酔いしにくいので毎週の移動時間が集中して仕事をしたり読書をしたりできる充実した時間になっていますが、乗り物に酔いやすい人はそのあたりも考えて拠点を決める必要がありそうです。
二地域居住を実践する際、2つの拠点で同じものが1つずつ必要になります。私の場合は、長野県の拠点は一戸建てで東京の拠点はアパートですが、両方の拠点に1つずつ以下のような家財道具があります。これらはどれも二地域居住を始めた際に購入したものです。
片方の拠点がホテルやゲストハウスでない限り、二地域居住を実践する場合は初期投資が数十万円単位で必要となります。上記に追加して両方の拠点が賃貸の場合、純粋に毎月2倍家賃を支払う必要があります。交通費にプラスしてこれらの費用がかかることは、実践前には盲点になりやすいので注意しましょう。特に二拠点居住が短期間で終わる見込みがある場合、全てを購入するのはもったいないのでシェアサービスやリースをうまく活用してみるといいかもしれません。
本記事では、2つの拠点を持って暮らす二地域居住の実態について筆者の体験を交えながら解説しましたが、近年は3つ以上の拠点を持つ多拠点生活を実践する人も増えてきています。アドレスホッパーと呼ばれる彼らの生活は、二地域居住のデメリットで挙げた「2つ同じモノが必要になる」点をかるく飛び越え、モノをできる限り持たないスタイルがメインになります。
ライフステージの変化にともない変化する、二地域居住を含む多拠点生活のスタイル。まずは本記事を参考にして二地域居住にトライしてみたのち、3つ以上の拠点を持つ生活にもトライしてみてはいかがでしょうか? 複数の地域に住むことで今までは気がつかなかった新しい価値観やパースペクティブが手に入れられるはずです。
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まちづくりライター
伊藤将人
1996年長野県生まれ。一橋大学社会学研究科にて地方移住と観光に関する研究を行いながら、KAYAKURA代表として長野県内外で観光インバウンド・移住・まちづくりのコーディネート・調査・PRを手がける。訪日観光客向けWebサイトNAGANO TRIP、地域考察WebメディアKAYAKURA運営。週刊SPAや公益社団法人 日本観光振興協会発行『観光とまちづくり』など執筆多数。東京都国立市と長野県の2拠点居住中.Twitter@ito_masato