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不動産投資だけでなく、自分で住まう家を購入する際にも知っておいて損はない「共同担保目録」。元大手不動産会社勤務のライター・亀梨奈美さんにご解説いただきました。
今回は、「共同担保目録」という、なんとも難しそうな言葉の意味を解説していきます。とはいえ、わかってしまえば難しいものではありません。共同担保目録とは、簡単にいえば、債権の担保になっている不動産の一覧表。「一覧」というからには、2つ以上の不動産ということになります。
共同担保目録は、不動産売買にも関わる重要な情報です。投資物件を購入する場合もまた、共同担保を検討する必要性が生じることもあります。本記事では、共同担保目録の見方や「担保」となっている状態を抹消する方法までわかりやすく解説していきますので、ぜひ参考にしてみてくださいね!
共同担保目録とは、1つの債権の担保となっている複数の不動産を一覧にまとめたものです。
1つの不動産を対象にして債権の担保とすることができますが、借り入れ額に対して1つの不動産では担保価値が不十分な場合に「共同担保」とすることがあります。たとえば、「5,000万円借り入れたいのに、不動産Aだけでは担保価値が3,000万円しかない」という場合には、2,000万円の担保価値がある不動産Bと共同担保とすることで、借り入れが可能となります。このケースでは、共同担保目録に不動産Aと不動産Bが記載されるということです。
不動産担保ローンや不動産投資を検討していない人は、共同担保とは無縁なのか?といえばそんなことはありません。住宅ローンを組むときには、ご自宅の「建物」と「土地」が担保となります。これも一種の共同担保。よって、どんな方でも共同担保について理解を深めることは、損にはならないといえるでしょう。
「不動産が債権の担保となっている」という状態は、一般的に、不動産に対し「抵当権」が設定されているということです。
抵当権とは、金融機関などの債権者(貸す人)が、不動産に設定する権利。債権者は、万一債務者(借りている人)による返済が滞ったとき、この抵当権を実行して不動産の競売にかけるなどして債権回収を図ります。
ここからは、共同担保にするメリットとデメリットを、債務者(借りる人)と債権者(貸す人)の視点で解説します。
共同担保とするメリットは、1つの不動産では担保価値が不十分な場合でも、2つ以上の不動産の担保とすることで希望の額を借り入れられることでしょう。こちらは、債務者(借りる人)のメリットですね。
一方で、債権者(貸す人)にも共同担保とするメリットはあります。それは、担保の安全性を確保できること。共同担保とすることで安全性が確保できる理由は、次の2つです。
不動産の価値は日々推移しているものです。そのため、貸付時点の担保価値が維持できるとは限りません。不動産を担保としての貸付期間は長期にわたるケースが多いため、その間には、残債に応じた資産価値が確保できない状況に陥ってしまう可能性もあります。共同担保とすることで、いずれかの不動産の価値が低下したとしても、残りの不動産の担保価値が維持できていれば、万一のときでも債権の回収率が上がるといえます。
たとえば、戸建ての「土地だけ」が担保となっている場合、債権者は万一のときの差し押さえの実効性が下がってしまいます。
その理由は、土地のみにしか抵当権が設定されておらず建物まで競売にかけることができないため買受人が現れにくくなってしまうのです。「土地」と「建物」が共同担保になっていれば、債権者は不動産を差し押さえしやすく回収率も上がる傾向にあります。
債務者は、共同担保とすることで、1つの不動産を担保とするだけでは借り入れられない金額の融資を受けられます。これはたしかにメリットではありますが、共同担保としたそれぞれの不動産の流動性が下がる点はデメリットだといえるでしょう。
たとえば、1つの債権の共同担保として担保価値3,000万円の不動産Aと2,000万円の不動産Bに抵当権が設定されている場合、「Aだけ売りたい」「Bだけ抵当権を抹消したい」ということが難しくなります。
債務を完済できれば共同抵当権の抹消ができますが、たとえ3,000万円分返済していたとしても、不動産Aだけ手放せるかといえばそうとは限りません。共同担保は、2つもしくはそれ以上の不動産を共に担保とすることで、借り入れができている状態であるため、残債務がある限りどちらか一方を「売る」「他の借り入れの担保とする」といったことができません。
共同担保目録は、「登記事項証明書」に記載されています。上記画像の、赤枠で囲った部分です。
共同担保目録を確認するには、登記事項証明書を取得しなければなりません。登記事項証明書は、法務局で取得します。ただし、ただ登記事項証明書を請求しても、共同担保目録の記載がない書面が発行されてしまいます。そのため、下記申請書の赤枠をつけた部分に、共同担保目録が必要な旨を記載して申請してください。
共同担保目録の確認で見るべき部分は、登記事項証明書の「権利部(乙区)」と「共同担保目録」の項目です。まず、「権利部(乙区)」では、誰が、いつ、いくらの抵当権を設定したかがわかります。上記の見本では、「令和1年5月7日に法務五郎さんが南北銀行から4,000万円の借り入れをし、この不動産に抵当権が設定された」という情報が記されています。
また「共同担保目録」は、担保となっている不動産の一覧です。見本では、同じ所在の土地と建物が共同担保となっていることがわかります。「順位番号」は、1つの不動産に2つ以上の抵当権が設定されている場合の優先順位です。債務者による返済が滞った場合、順位番号が若い抵当権者から優先して債権を回収できます。
共同担保となっている不動産を売却するには、抵当権を抹消しなければなりません。法的には、抵当権が設定されている不動産も有効に売買できますが、担保が設定されている状態の不動産を購入する人はまずいません。よって、売却の必須要件となるのが、抵当権の抹消となります。
共同担保に設定された抵当権は、基本的に、債務の全額返済と同時に抹消されます。前述の通り、複数の不動産が共に担保となっている場合には、いずれか1つの不動産だけ抵当権を抹消するのは難しいといえます。とはいえ、引き続き抵当権を設定する不動産の担保価値が充分だと判断されれば、完済せずとも債権者はいずれかの不動産の抵当権を抹消する判断をしてくれる可能性があります。
また、債務を完済できずとも抵当権を抹消する別の方法として、「任意売却」が挙げられます。任意売却は、債務を完済できない場合や返済を一定期間滞らせてしまった場合における不動産売却方法です。任意売却についても、債権者の判断によって実施の可否が決まるため、債務を完済できずとも抵当権を抹消したい場合には、債権者、あるいは不動産業者や弁護士などの専門家に相談するといいでしょう。
債務を完済すれば、自動的に抵当権が抹消されるわけではありません。抹消するためには、「抹消登記」が必要です。登記手続きは、申請書に記入して必要な書類を添付し、登録免許税を納税して完了。ご自身で申請することもできます。ただ、抵当権の抹消登記は、不動産売買の残代金決済・物件引き渡し日と同日におこなわれることが一般的であるため、手続きを速やかに行わなければならず、手続きに不備がないようにしなければなりません。そのため、抹消登記は、登記の専門家である司法書士に依頼するのが一般的です。
共同担保目録とは、担保不動産の一覧です。1つの債権に対し2つ以上の不動産が担保となっている状態が共同担保。1つの不動産では担保価値が足りない場合にも、2つ以上の不動産を担保とすることで希望額の借り入れができます。しかし、共同担保とすることによって、1つひとつの不動産の売却や転用がしにくくなることには注意が必要です。
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不動産ライター
亀梨奈美
大手不動産会社退社後、不動産ライターとして独立。在籍時代は、都心部の支店を中心に契約書や各書面のチェック、監査業務に従事。プライベートでも複数の不動産売買歴あり。業界に携わって10年以上の経験を活かし、「わかりにくい不動産のことを初心者にもわかりやすく」をモットーに不動産記事を多数執筆。