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資産運用初心者におすすめされることの多い投資信託。その利益には「分配益」と「譲渡益」があります。
それぞれの違いと、一見お得に見える「毎月分配型」の投資信託の注意点について、金融ライターの山下耕太郎さんにご解説いただきました。
投資信託の利益には、分配金と謙譲益があります。投資信託の利回りを考えるときは、分配金と謙譲益を合わせた「トータルリターン」で考える必要があります。
今回は、投資信託の利回りについて解説します。
投資信託は大勢の投資家から資金を集め、株や債券・不動産など複数の金融商品で運用します。そして、主に次の3つのメリットがあります。
投資信託のメリットについては、以下の記事を参考にしてください。
【参考記事】投資信託とは?仕組みとメリット・デメリットを元証券マンが詳しく解説
このように様々なメリットがある投資信託ですが、実際の利回りはどの程度なのか気になる方も多いと思います。投資した元本が、どれくらいの期間で、どの程度の利益を出しているかということは、投資において重要です。そして、その目安となるのが利回りです。
基準価額とは、投資信託の値段のことです。時価総額(その投資信託が保有する株式や債券などの時価評価の総額に利息や配当金を加え、運用コストを差し引いた金額)を総口数で割って算出します。基準価額は通常1万口当たりの値段で表され、計算式は以下の通りです。
基準価額=純資産総額÷口数✕10,000口
株式は100株単位の「株数」ですが、投資信託の取引では「口数」という単位を使います。
基準価額は、投資信託の運用実績と比例します。基準価額が上昇しているということは、運用がうまくいっていることを表します。
投資信託の利益には、「分配金」と「譲渡益」の2つがあります。それぞれ詳しく解説します。
分配金とは、投資信託の収益から投資家に還元するお金のことです。決算時に支払われるのが一般的で、運用実績にもとづいて得られた利益を投資家の口数に合わせて支払います。ただし、分配金は毎回支払われるわけではありませんし、金額も決まっていません。
そして、分配金には「普通分配金」と「特別分配金」があります。普通分配金とは、分配落ち後の基準価額が、投資家の個別元本(投資信託の買い値)と同額か上回っている場合に支払われる分配金のことで、課税の対象になります。
一方、分配落ち後の基準価額が個別元本を下回っている場合には、その下回る部分の額が特別分配金となり、非課税になります。
譲渡益とは、保有するファンドを売却したときに発生する利益です。ファンドを解約(売却)した時の基準価額が購入時の基準価額を上回っており、コストを控除した後にプラスであれば譲渡益になります。一方、マイナスのときは譲渡損となります。
利率とは元本に対する利息の割合のことで、一般的に債券や銀行の預金に対して使われる言葉です。投資信託の利率は、投資した金額に対して定期的に発生する「分配金」の割合。分配金は、投資信託の運用期間を通じて変動した基準価額に応じて運用会社の判断で支払われます。
一方の利回りは、投資金額に対する収益の割合のことで、分配金だけでなく、投資信託を売却した際に発生する売却益も含みます。通常は、1年間の「年間利回り」を利回りと呼ぶことが多いです。利回りのことは、「トータルリターン」と呼ぶこともあります。
ファンドの新規買い付けから算出基準日までの全期間を通じた損益金額を収益率で表したものを「トータルリターン」といいます。
近年は毎月分配型投資信託など、分配金を頻繁にだすファンドが多くなり、結局いくら利益がでているかわからないという声が多くなりました。そこで、2014年12月1日以降に投資信託を販売する証券会社や銀行などの金融機関に対し、「トータルリターン通知制度」として、年1回以上定期的に投資家に通知することが義務付けられています。
騰落率と利回りの違いについても確認しておきます。
投資信託の騰落率とは、3カ月や半年・1年など一定の期間において、ファンドの基準価額がどれだけ変動したかを表す数字で、ファンドの運用成績を図るものです。たとえば、基準価額10,000円の投資信託が1年後に12,000円に値上がりした場合の騰落率は20%です。
一方の利回りとは、分配金込みの騰落率です。投資信託の銘柄を評価するときは、騰落率だけ見るのではなく、利回り(トータルリターン)で判断するようにしましょう。
利息の計算方法には、「単利」と「複利」の2種類があります。単利とは、利益を元本に組み入れず、元本部分に対してのみ利息がつくものです。元本の部分は当初と同じ金額なので、金利に変化がなければ利息が増えることはありません。
一方、複利とは預金や投資から得られた利息を元本に組み入れ、その元本に対して利息が再度計算されます。利息がでるたびに元本が増えていくので、利益が一定でも、元本に対して利益も増加していくのです。これを「複利効果」といいます。投資信託の利回りを高めるためには、複利運用をすることが大切です。
複利効果を高めるためには、「分配金が頻繁にでる投資信託を選ばない」、「分配金を再投資」することが有効です。
複利効果を得るためには、分配金を再投資しなければいけません。そのためには、「毎月分配型」など頻繁に分配金をだす投資信託は選ばないようにしましょう。とくに複利効果は長期になればなるほど大きくなります。老後のためなど、長期で運用を考えている場合は、自動で分配金を再投資するファンドを選ぶと便利です。もしくは、分配金がでない投資信託を選ぶようにします。
分配金がでた後に、自分で同じ投資信託を買うことも可能ですが、その場合は購入手数料がかかることがあります。余計なコストがかからないように注意が必要です。
複利運用する場合、「72の法則」も覚えておきましょう。72の法則とは、資産を倍にするために必要な年数を計算する方法です。ただし、計算された値は近似値なので、目安として考えます。72の法則の計算式は、以下の通りです。
72÷金利≒資産が2倍になる期間
たとえば、年間2%で複利運用した場合、資産が2倍になる期間は以下の通りです。
72÷2=36年 約36年
それでは、年間3%で運用した場合はどうでしょうか。
72÷3=24 約24年
年率1%差で、資産を倍にするのに12年もの差がつきます。複利で長期運用する場合、コスト(とくに信託報酬)を意識する必要性が高いのです。
利回りを高めるためには、コストにも注意する必要があります。コストは、運用損益にかかわらず必ずかかるものなので、必ずチェックするようにします。
投資信託の手数料には、主に次の2つがあります。
購入時に販売会社(証券会社・銀行など)に支払う手数料で1~3%程度かかります。購入時手数料は投資信託によって異なり、別途消費税がかかります。また、同じ投資信託でも販売会社によって異なる場合があるので、複数の販売会社を比較してから購入するようにしましょう。また、最近では購入時手数料がかからない「ノーロードファンド」も増えています。
信託報酬とは、投資信託を管理・運用してもらうための経費として、ファンドを保有している間ずっと支払い続ける費用です。ただ、別途支払う必要はなく、信託財産のなかから純資産総額に対して何%といった形で毎日引かれます。投資信託の種類によって信託報酬もことなりますが、年率0.5~2.0%が一般的です。
信託報酬は保有している間かかり続けるコストなので、長期保有の場合は、販売手数料よりも大切です。
今回は、投資信託の利回りについて解説しました。投資信託の利回りは、分配金と譲渡益をあわせた「トータルリターン」で考えるようにします。
しかし、投資信託の利回りはあくまで過去の結果にすぎません。銀行預金ならお金を預けた時点で元本に対して受け取る利率が決まっています。しかし、投資信託は値動きがありますし、分配金も決まっているわけではありません。もちろん、過去の利回りをチェックすることは大切ですが、将来も必ず同じ利回りになるわけではないということに注意が必要です。
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金融・投資ライター
山下耕太郎
一橋大学経済学部卒業後、証券会社でマーケットアナリスト・先物ディーラーを経て個人投資家・金融ライターに転身。投資歴20年以上。現在は現物株・先物・FX・CFDなど幅広い商品で運用を行う。ツイッター@yanta2011