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クラウドリアルティでは、不動産だけではなく様々な投資の情報を発信しています。投資信託に関する記事も多くありますが、これと似た特徴を持つものとして、ヘッジファンドも存在します。今回は個人投資家で金融ライターの山下耕太郎さんにヘッジファンドについてご解説いただきました。
ヘッジファンドは、1949年に米国で誕生しました。元コロンビア大学教授でフォーチュン誌の記者だったアルフレッド・W・ジョーンズ氏が、「ロングポジション(買い)」と「ショートポジション(売り)」の両方を持つことで、相場が上がっても下がっても損をしない「絶対リターン」を目指す投資手法を考えたことが始まりです。
そもそもヘッジ(hedge)というのは「リスクを回避する」という意味で、もともとリスクをコントロールして投資家の資金を守ることを意味していましたが、いつの頃からかヘッジファンドは、ハイリスク・ハイリターンの代名詞となりました。
日興リサーチセンターの調べによると、2020年4月末の運用残高は2兆655億ドル(約220兆円)。ファンドの規模は小さいもので500万ドル程度ですが、大きいものでは5億ドルを超えるものもあります。
資産残高が大きくなりすぎると運用が難しくなるので、追加の募集をしていないファンドもあります。普通の投資信託は「公募投信」といって一般の個人投資家でも購入できますが、ヘッジファンドは「私募投信」といって、機関投資家や富裕層など限られた投資家が出資して運用します。
ただ最近は、ヘッジファンドに投資する「ファンド・オブ・ヘッジファンズ」や、ヘッジファンドに似た運用を行うヘッジファンド型の投資信託も出現しています。
ヘッジファンドは、各国の機関投資家や金融機関、中央銀行などと並び、世界のマーケットのメインプレイヤーです。1992年の欧州通貨危機や、1997年のアジア通貨危機でも仕掛け人になったと目されることもあり、マーケットでの存在感を高めているのです。
投資信託 | ヘッジファンド | |
対象投資家 | 一般投資家 | 機関投資家・富裕層 |
投資金額 | 100円から | 数千万~数億 |
投資対象 | 株や債券などの伝統的資産 | 伝統的資産のほか、先物やオプションなどのデリバティブ |
収益目標 | 相対収益 | 絶対収益 |
レバレッジ | 基本的になし | 高いレバレッジ(最大10倍程度) |
公募ファンドである「投資信託」と、私募ファンドである「ヘッジファンド」の違いを解説します。
投資信託の運用目標は、「ベンチマーク」を上回ることです。ベンチマークとは、投資信託が運用の指標として用いる基準。日本株に投資するファンドであれば、日経平均株価や TOPIX (東証株価指数)などがベンチマークになります。
ですから相場が下落局面で運用成績がマイナスになっても、ベンチマークを上回っていれば評価されます。このように運用成績をベンチマークと比較することを「相対収益」というのです。
一方のヘッジファンドは、相場が上がっても下がっても、プラスの利益を目指します。これを「絶対収益」の運用といいます。絶対収益とは、必ず利益を上げるという意味ではなく、ベンチマークなどの比較対象がない状態で、どんな相場環境でも利益を目指すという意味です。
とくにヘッジファンドが得意としているのが「空売り(からうり)」。空売りでは、「高く売って、安く買い戻す」という売りから入る取引です。通常の買いと空売りを組み合わせた取引を「ロング・ショート戦略」といい、ヘッジファンドの運用資産の3割を占めるメイン戦略です。
【関連記事】投資信託(ファンド)とは?仕組みとメリット・デメリットを元証券マンが詳しく解説
投資信託の主なコストは、購入時手数料と信託報酬です。購入時手数料は投資信託を買う時にかかるコストで、0~3%の手数料がかかります。また年率1.5%前後の信託報酬が、毎年徴収されます。
一方のヘッジファンドも、年間の管理手数料は運用残高の2%程度で、投資信託の信託報酬と変わりません。しかし、利益に対して20%の成功報酬がかかります。成功報酬とは、運用成績に対して20%など一定の率をかけたものを、ファンドマネージャーが受け取るシステムです。利益をだせばファンドマネージャーの収入も上がることから、運用成績を上げる動機を高める効果があるのです。
ヘッジファンドには様々な手法がありますが、2020年4月末時点の運用残高の戦略別構成比は、次の通りです(日興リサーチセンター調べ)。
それぞれの手法を解説します。
「買い」から入る通常の取引「ロングポジション」と、売りから入る「ショートポジション」を組み合わせてリスクをヘッジ(回避)する投資手法。ヘッジファンドの代表的な手法で、運用残高全体の3分の1を占めています。
アービトラージやイベント・ドリブンなど複数の戦略を組み合わせたのが「マルチ・ストラテジー」。リスクを分散できるので、機関投資家の利用が増えています。
イベント・ドリブンとは、企業のM&A(合併・買収)や株式公開、業務提携など企業の重要な「イベント」に焦点を当てて投資する方法。企業の株価は、イベントによって大きく変動します。あるイベントでプラスになる企業もあれば、マイナスになる企業もあります。イベントでプラスになる企業の株式を買い、マイナスになる企業の株式を売ることで収益を狙うのです。
マネージドフューチャーとは商品投資顧問業者のことで、CTA(Commodity Trading Advisor)とも呼ばれています。主に先物市場において、コンピューターを使った高速取引を行います。とくに相場が上がっても下がっても利益を狙う「トレンドフォロー型」が有名です。
アービトラージとは、コンピューターで求めた適正な理論価格と実際の価格との差額に注目した取引で、割高な方を売り、割安な方を買います。そして、両者の価格差が縮小した時に反対売買をし、利益を確定させる取引です。
2008年のリーマンショックで世界的な株安と信用収縮が進んだことにより、ヘッジファンドに対する風当たりは強くなりました。
富裕層や機関投資家など限られた投資家の資金をもとに大胆にリスクをとり、マーケットの混乱をいとわない存在だったからです。「リーマンショックの原因となったのはヘッジファンド」という見方もあり、とくに欧米ではヘッジファンドを始めとした投資ファンドに対する規制が強化されたのです。
2010年にアメリカではボルカールールを含むドットフランク法(金融規制改革法)が成立。2011年6月に、EUでも「オルタナティブ投資ファンド運用者規制法」が発令されました。規制の内容は主に、許認可制の導入や情報開示、販売や勧誘に関する制限などとなっています。
このような規制と運用成績が振るわなかったことで、近年ヘッジファンドは転機にさしかかっています。調査会社イーベストメントによると、2019年1月から8月の資金流出額は630億ドル(約6兆7000億円)を超え、2009年以来10年ぶりの大きさとなったことも報道されています。(2019/10/10付日本経済新聞)
2018年にヘッジファンドの運用成果が振るわなかったことで、解約が増加したからです。2018年のヘッジファンドの運用成績は、約5%のマイナス。米国の代表的な株価指数であるS&P500種株価指数を下回るだけでなく、どの戦略も運用成績が振るいませんでした。
また2019年には10.4%と約10年ぶりの高パフォーマンスを上げたにもかかわらず、400億ドルを超える資金流出に見舞われました。S&P500種株価指数の31.5%を大きく下回ったからです。
かつてのヘッジファンドは、富裕層など一部の限られた投資家の資金をもとに、大胆なリスクを取って高パフォーマンスを誇ってきました。しかしリーマンショック後の規制強化で、投資家への情報開示や法令遵守(コンプライアンス)が求められるようになり、それに応えられないヘッジファンドは、退出を余儀なくされているのです。
2020年のコロナショックによる金融市場の混乱が、ヘッジファンドをさらに苦しい状況に追い込んでいます。ヘッジファンドで世界最大の「ブリッジウォーター・アソシエイツ」の運用成績は、年初来から3月まで2割のマイナス。業界全体でも2008年のリーマンショック以来の悪化を記録しました。
米調査会社HFR(ヘッジファンド・リサーチ)が算出する、全体の運用成績を示す指数は3月23日時点でマイナス8.6%と、2008年10月以来の悪さとなったのです。米国の株価指数であるNYダウが連日1,000ドル以上乱高下する中、これまで安定的に運用成績をだしていた勝ち組のヘッジファンドでも、損失をだしてしまっているのです。これも報道され、世間の耳目を集めました。(2020/3/25 21:00日本経済新聞)
ヘッジファンドは、値下がり局面でも利益を得られる「絶対収益」が売りでした。通常の投資信託は、「安く買って、高く売る」と買いから入るのに対し、ヘッジファンドは「高く売って、安く買い戻す」という空売りを取り入れてるファンドが多いからです。
しかし過去にないほどのボラティリティ(値動きの大きさ)の高さに、振り回されているヘッジファンドが多くなっています。
投資家がヘッジファンドに期待しているのは、マーケットが下がる局面でも損失を抑え、安定的な運用成績を上げること。しかしここ数年運用成績が振るわない上に手数料が高いということで、投資家の解約が続いているのです。
ヘッジファンドは、1949年に米国で誕生しました。2020年4月末の運用残高は2兆655億ドル(約220兆円)で、マーケットにも大きな影響を与えています。
しかし、2008年のリーマンショック以降に規制強化が進んだことや、近年運用が振るわなくなったことにより解約が増え、ヘッジファンドには逆風が吹いているのです。
2020年のコロナショックでも大きな損失をだしたヘッジファンドが多くなっています。今後、どんな相場環境でも「絶対収益」を目指すヘッジファンドの巻き返しがあるのかに注目しています。
【あわせてどうぞ】投資信託の選び方と、元証券マンおすすめファンド3選
金融・投資ライター
山下耕太郎
一橋大学経済学部卒業後、証券会社でマーケットアナリスト・先物ディーラーを経て個人投資家・金融ライターに転身。投資歴20年以上。現在は現物株・先物・FX・CFDなど幅広い商品で運用を行う。ツイッター@yanta2011
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