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クラウドリアルティでは投資に関する様々な情報を発信しています。時代の変化に伴って、投資のトレンドも変化していますが、環境問題への意識の高まりと共に注目されているのが「グリーンボンド」です。今回は、このグリーンボンドについて、ライターのmarimokotaさんにご解説いただきました。
グリーンボンドとは、環境改善効果が見込まれるプロジェクトの資金調達のために発行される債券(ボンド)のことを言います。
世界の発行実績は、2009年に約9億ドルでしたが、2019年には2,500億ドルを突破しており、10年でなんと277倍の規模になりました。
それほど発行実績が伸びている背景には、近年注目されている「持続可能な社会の実現(SDGs)」に対し、そのツールとなるグリーンボンドに各企業や投資家たちが注目しているからではないでしょうか。
当記事では、グリーンボンドの仕組みとその魅力、リスクについて紹介します。
グリーンボンドとは、環境保全ための事業に特化した資金を調達するためのものです。
代表的なものには、メガソーラーなどの太陽光発電や風力発電、地熱発電など再生可能エネルギーなどの活用です。
他には、省エネルギーに関する事業や汚染防止、水問題、気候変動の適応に関する事業など、その内容は多岐にわたります。
国内では、2014年に初めて日本政策投資銀行が発行しました。その後は、メガバンクや地方自治体など、近年その発行体は拡大しており、今後も有力な資金調達の手段になると見込まれています。
グリーンボンドの取引の指標となるものが、グリーンボンド原則(GBP)です。GBPは透明性の確保や市場の秩序を促進させるため、適時改正されています。
GBPの核となる要素は以下の4つです。
1.調達資金の使途
グリーンボンドにより調達された資金は、環境改善効果をもたらす「グリーンプロジェクト」に充てられるべきとされています。
適格性のあるグリーンプロジェクトは「気候変動緩和策」「気候変動適応策」「自然環境保全」「生物多様性保全」「汚染対策」の5つに分けられます。
2.プロジェクトの評価及び選定のプロセスの透明性
グリーンプロジェクトの選定基準やプロセスなどについて、事前に投資家に伝えるべき点を規定しています。たとえば、実現しようとする環境面での目標やプロジェクトの評価を行う判断基準、選定プロセスなどです。
3.資金調達の管理
グリーンボンドにより調達した資金は、プロジェクトに充当した資金と、残高を分別管理し、管理の透明性も確保するよう規定されています。
4.レポーティング
資金使途、プロセス、管理について、定期的に投資家に説明すべきであり、特に外部機関によるレビューを活用することが望ましいとされています。
国内においてもグリーンボンドの発行数は増加しており、2014年の発行額が337.5億円に対し2019年は8,238億円までに成長しています。
国内では、金融機関や不動産会社による省エネルギー投資のための発行が中心でしたが、最近は様々な業種で発行されています。
具体的な国内の発行リストを見てみると、いち早く発行した日本政策金融公庫に次いで、メガバンク3社が、いずれも再生可能エネルギーや省エネルギー事業のために発行しています。
不動産業界では、環境基準を満たす物件の取得のために発行を行うところが多く、三井不動産や三菱地所の大手はもちろん、日本プロロジスリートや大和ハウスリートなどのJ-REITも、発行実績があります。
地方自治体では、東京都がオリンピック関連施設の環境対策やスマートエネルギー都市づくりのために発行をしており、発行体の業種も多様化しています。
グリーンボンドの種類は大別すると4つあげられます。資金使途がグリーンプロジェクトに限定されることは変わりありませんが、償還方法が異なります。
①標準的グリーンボンド(Standard Green Use of Proceeds Bond)
プロジェクトに必要な原資を特定の財源に頼らず、発行体全体のキャッシュフローで調達する目的で発行します。
②グリーンレベニュー債(Green Revenue Bond)
グリーンプロジェクトからの事業収入のほか、使用料などの将来見込まれるキャッシュフローを原資に償還する債券です。
③グリーンプロジェクト債(Green Project Bond)
単一または複数のグリーンプロジェクトのキャッシュフローのみを原資に、償還する債券です。
④グリーン証券化債(Green Securitized Bond)
太陽光パネルや省エネ機器などといった具体的なグリーンプロジェクトを裏付けとして、これから生まれるキャッシュフローを原資に償還する債券です。
これらは市場の発展により、新しい種類が生まれる可能性があります。
企業にとっては、近年関心の高まっている再生可能エネルギー開発への取り組みをステークホルダーへアピールすることができ、新しい投資手法にも取り組んでいるといった企業イメージ戦略に有効です。
実際、国内企業等の発行件数と総額は年々上昇傾向にあります。発行件数、総額ともに過去最高だった2019年は58件で8,238億円の実績でしたが、2020年の発行数は3月時点で、すでに27件、2,539億円に達しています。
勢いのある市場であり、これからさらに大きな市場に成長するポテンシャルがあることが伺えます。そのため発行体にとっては、市場が拡大するとともに投資家層が多様化することもメリットになるでしょう。
投資家は持続可能社会に貢献する再生可能エネルギーに投資することで、社会的なステータスを得られることが期待できます。
また、グリーボンドは株式や債券などとの価値連動性が低いオルタナティブ投資の側面もあり、分散型投資によるリスクヘッジとしても有効な手段となるでしょう。
グリーンボンドのデメリットとしては、集めた原資の使用使途が限られることがあげられます。
また資金使途が限られているのにも関わらず、その資金がグリーンプロジェクトに用いられないことも考えられます。「グリーンデフォルト」と呼ばれていますが、投資家に対し法的救済が与えられない可能性があります。
GBPのガイドラインも自主的なものであり、強制力がないからです。統一的な定義・基準を設けることが今後の課題と言えるでしょう。
「持続可能な社会の実現(SDGs)」と低炭素経済への移行については、国際的にも避けては通れない課題であり、世界共通の長期目標です。
ドイツでは2020年に発電量に占める割合が化石燃料を上回り、脱炭素を体現してみせたことで欧州諸国を驚かせました。
このような事例を背景に、グリーンプロジェクトを世界各国が積極的に取り入れる動きが、広がりを見せると予想されています。
さらに約160兆円もの資産規模を持つ日本の年金を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は、ESG投資を重視しており、グリーンボンドへの投資を本格的に始める方針です。
GPIFのような世界最大規模の機関投資家の継続的なコミットメントにより、他の投資家たちも追随する可能性があり、今後さらに投資は活発化するだろうと言われています。
グリーンボンドは持続可能な社会の創造のために有効な原資獲得の手段になると見込まれており、個人向けの債券の販売を開始する発行体も増えています。
自治体では東京都が5年債、10年債の2種類の債券を発行し、みずほ銀行等が取り扱い機関となり個人向け債を容易に購入することができるようになりました。
こうして徐々に身近なものになってきたグリーンボンドは、世界の環境意識の高まりと共に日本でも大きな注目を集めており、取引環境の整備が進むにつれ市場の熟成が進むことが期待されています。
ライター
marimokota
某保険会社に20年勤務。ファイナンシャルプランナーとして保険相談や家計、行政手続きなどの支援も行っています。投資歴はREITなど指数取引や個別銘柄の株式投資を経験し、今はドルコスト平均法やニーサ口座でのS&B運用で手堅く老後資金を貯めています。