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クラウドリアルティでは投資に関する様々な情報を発信しています。そうした投資であったり、金融に関する記事を読む中で目にする「専門用語」の数々……中には難しいと感じる言葉も多いのではないでしょうか。今回は現役銀行員の加藤隆一さんに、エクイティファイナンスとデットファイナンスについてご解説いただきました。
企業の資金調達法として、以下2つの用語を耳にしたことはないでしょうか?
・エクイティファイナンス
・デットファイナンス
これらの用語の意味は、企業運営をなさっている方は知っておいて損はありません。
しかし、
「エクイティファイナンスってなに?」
「デットファイナンスのデットとは?」
「エクイティファイナンスと、デットファイナンスの違いは?」
おそらく、多くの方々はこのような疑問を抱くかと思います。
3つの疑問に対し、簡潔に答えると次のようになります。
Q1.エクイティファイナンスとは?
A1.返済義務のない資金調達。増資など。
Q2.デットファイナンスとは?
A2.返済義務のある資金調達。銀行融資など。
当記事では現役銀行員の私が、自身の関わった実例を踏まえて説明していきます。
具体的には、
・エクイティファイナンスとは?
・デットファイナンスとは?
の順で説明します。
生きたお金の流れを見てきた銀行員として知識を共有させていただきますので、ぜひ参考にしてください。
まず、「エクイティファイナンスとは?」について以下の順で説明させていただきます。
1. エクイティファイナンス~言葉の定義
2 エクイティファイナンス~3つの特徴
3. エクイティファイナンス~4つの具体例
4. エクイティファイナンス~3つのメリットとデメリット
エクイティファイナンスを直訳すると「株主資本(エクイティ)の増加をもたらす資金調達(ファイナンス)」です。
つまり、エクイティファイナンスは企業が株式を発行することで投資家から資金を直接調達する方法です。
資金調達をお金の貸し借りと捉えた場合、借り手(企業)と貸し手(投資家)の間に第三者が介在しないので、エクイティファイナンスを「直接金融」とも呼びます。実務上は株式を扱う証券会社などが間に入りますが、事務的な手続きをするだけでこれは介在とはみなしません。
これに対し、借り手と貸し手の間に第三者が介在する取引を「間接金融」と呼び、これをデットファイナンスといいます。
エクイティファイナンスには3つの特徴があります。
特徴1. 資本の増加なので、貸借対照表(バランスシート、B/S)では資本欄に属する
特徴2. 配当やキャピタルゲインで還元するが、確約はできない
特徴3. 例外はあるものの基本的に返済の期限がないし、確約もできない
特徴1. 資本の増加なので、貸借対照表では資本欄に属する
エクイティファイナンスは資本の調達なので、資本が増加します。あくまでも借金ではないので、負債が増えることはありません。
例えば増資でエクイティファイナンスを行なった場合、企業の貸借対照表では資本の部分が増えます。
貸借対照表は左右(左:資産、右:負債+資本)対称なので、資本が増えた分、現預金などが増加することになります。増資の具体例は後述します。
特徴2. 配当やキャピタルゲインで還元するが、確約はできない
エクイティファイナンスでは配当や売却益、あるいは償還差益で還元します。
配当などは、企業の業績に連動しますので、必然的に確約できるものではありません。
これはある意味、投資としては当然のことであり、次項にも関連します。
特徴3. 例外はあるものの基本的に返済の期限がないし、確約もできない
エクイティファイナンスでは、融資のように返済の期限が設定されていません。
例外的に期限(返済期限のこと、エクイティファイナンスでは「償還期限」と表現することが多い)を設定する場合もありますが、大部分は期限なしの資金調達方法です。
したがって、企業は期限を気にせずに、長期的な視野で事業をおこなうことができます。
特徴2と同様に企業の業績次第で、倒産や破綻が起こった場合償還不可能となる可能性もあります。
ここまでの話をまとめると、エクイティファイナンスには以下の特徴があります。
配当やキャピタルゲインで還元するが、確約はできない(特徴2)
返済期限がないし、確約もできない(特徴3)
投資としてこうしたリスクを内包するからこそ、国債などの公的な債権に比べ想定利回りなども高くなるのが一般的です。
ここでは、3種類の増資と転換社債型新株予約権付社債(CB)をご紹介します。
具体例1. 公募(時価発行増資)
時価で新株を発行して資金調達する方法です。
額面ではなく時価で新株を発行することで、時価評価が高いほど、少ない発行で資金調達ができるのがメリットで、株価が低ければその逆となります。
具体例2. 株主割当増資
現在の株主(既存株主)に対し、その保有している株数に応じて、新株発行数を割り当てる方法です。通常、時価より低い価格で発行されますが、株主には申し込みや払込みの義務はありません。申し込みがなければ、その権利は失効となります。
具体例3. 第三者割当増資
株主割当増資との違いは、株主かどうかを問わず、第三者に新株を引き受ける権利を与える点です。
提携企業などとの関係を安定させたいときや、自社株価が低く増資しにくい場合に使われる方法です。
具体例4. 転換社債型新株予約権付社債(CB)
一定の価格で株式に転換できる権利がついた社債(転換社債)を発行する方法です。
以前は単に「転換社債」と呼ばれていたものが、2002年の商法改正により上記の名称に変わりました。CB(Convertible:転換できる、Bond:債権)とも呼ばれます。
株式への転換はあらかじめ転換価格が決まっており、株価がその価格以上に値上がりした時は、大きな利益が得られるメリットがあるので、一般的な社債に比べ、利回りは低くなっています。
次にエクイティファイナンスの起業にとってのメリットとデメリットを3つずつ説明します。
メリット
メリット1. 明確な返済期限がないので、安定した資金調達手段になる
メリット2. 利息を支払う必要がないので、安定した資金調達手段になる
メリット3. 企業の信用度が向上する
デメリット
デメリット1.株価下落につながり、株主離れが起きる可能性がある
デメリット2.発言力の低下と、最悪では経営権を奪われる恐れもある
デメリット3.手続きにコストと手間がかかる
メリット1. 明確な返済期限がないので、安定した資金調達手段になる
エクイティファイナンスでは、融資のように返済の期限が設定されていません。
融資で調達すれば、毎回の返済義務が発生しますし、期限一括返済ならその期限までに返済金を準備しなければいけません。
これが企業への重しとなり、積極的な事業展開を妨げる可能性もあります。
しかし、エクイティファイナンスでは返済期限がないので、この点では拘束されず自由に、積極的な経営をすることが可能になります。
メリット2. 利息を支払う必要がないので、安定した資金調達手段になる
繰り返しになりますが、エクイティファイナンスは融資、つまり借金ではないので利息を支払う必要がありません。
つまり、最近ならコロナウイルス関連の実質無利子借入のように、金利ゼロで資金調達できることを意味します。もちろん発行コストや、配当を支払う義務はあります。
メリット3. 企業の信用度が向上する
「エクイティファイナンスで資金調達できた」
「これからエクイティファイナンスを実施します」
これらは、それなりの体力や財務基盤があることの証明となり、信用度が向上します。
デメリット1. 株価下落につながり、株主離れが起きる可能性がある
増資を実施し1株あたりの価値が下落してしまった場合には、もともとの株主(ステークホルダー)は損失を被ることもあり得ます。そうなると、株主離れが起きることが懸念されるでしょう。
デメリット2. 発言力の低下と、最悪では経営権を奪われる恐れもある
増資した株数によって発言力の低下や、最悪では経営権を奪われる恐れもあります。「物言う投資家」「物言う株主」によって影響力が低下するデメリットも考慮しておく必要があります。
デメリット3.手続きにコストと手間がかかる
増資などエクイティファイナンスでは、会社法など各種法律に則り正しく手続きを進める必要があり、コストと手間がかかります。場合によっては「低利で銀行から借りたほうが安上がり」ということもあり得ます。
では次にデットファイナンスとは?についてご説明させていただきます。
1.デットファイナンス~言葉の定義
2.デットファイナンス~3つの特徴
3.デットファイナンス~3つの具体例
4.デットファイナンス~3つのメリットとデメリット
エクイティファイナンスとデットファイナンスは正反対、表裏一体の関係なので、基本的にエクイティファイナンスで説明したことの裏返し、とイメージしてください。
デットファイナンスの直訳は「借入(デット)で資金調達(ファイナンス)する」で、借り手と貸し手の間に第三者が介在する取引「間接金融」です。
特徴1. 負債の増加なので、貸借対照表では負債欄に属する
特徴2. 金利(利息)の支払義務が生じる
特徴3. 返済期限がある、定例返済がある
特徴1. 負債の増加なので、貸借対照表では負債欄に属する
エクイティファイナンスは資本の調達なので、資本が増加します。あくまでも借金ではないので、負債が増えることはありません。
例えば増資でエクイティファイナンスを行なった場合、企業の貸借対照表では資本の部分が増えます。貸借対照表は左右(左:資産、右:負債+資本)対称なので、資本が増えた分現預金などが増加することになります。増資の具体例は後述します。
特徴2. 金利(利息)の支払が生じる
融資でも社債・私募債でも利息支払が義務づけられています。
「タダでは貸してもらえない」のは世の常ですが、この利息支払も企業の負担になることは間違いありません。利息については、融資であれば貸金業法といった法律で上限金利が定められています。
社債や私募債の場合は、自社の業績や社会的認知度などから出資者に魅力を感じさせる水準を決める必要があります。
特徴3. 返済期限がある、定例返済がある
ここがエクイティファイナンスとの最大の違いです。
返済期限には完済する、あるいは毎月決められた返済をおこなう必要があります。これを「約定返済、約定弁済」といいます。企業は日々返済を頭に置かねばならず、必然的に資金繰りも必要になります。
ここでは3つの具体例をあげます。
具体例1. 融資(金融機関からの借入)
金融機関からの融資は、デットファイナンスの代表格です。なぜなら、融資すなわちデットファイナンスといってよいほどその特徴が揃っているからです。
具体例2. 社債、私募債
社債は満期一括償還が多いので、融資と比べて資金繰りに余裕が生じます。
社債も負債なので、融資と同じく返済や利息支払の義務があります。また、支払利息が損金算入できるところも融資と同じです。
社債にもいくつか種類があります。ここでは公募社債、私募債を簡単に説明します。
公募社債
「無担保普通社債」とも呼ばれます。大企業などで一般的な、いわゆる社債のことです。
金額により有価証券報告書や有価証券通知書の提出義務がある、公募の手続きが必要になります。
私募債
私募債も社債の一種です。
公募社債との違いは、公募手続きが不要なところです。私募債も大企業では大型発行します。中堅あるいは中小企業では、金融機関や信用保証協会が、償還について保証する形式が主流です。
これらは、「銀行保証付(銀行引受)私募債」「信用保証協会保証付私募債」などと呼ばれます。
具体例3. 投資家からの資金調達
ここではクラウドファンディングと、ソーシャルレンディングについて簡単にご説明させていただきます。
クラウドファンディング
クラウドファンディングは、Crowd:群衆とFunding:資金調達の造語です。
インターネット等の手段で、不特定多数の人から資金を募ることを意味します。
個々人(法人が含まれる場合も)から少額の資金提供を募り、目標額が集まればプロジェクト成立となるパターンが主流です。
資金準備してから事業をスタートするので、スタート時の資金調達リスクは低減されます。しかし逆にいえば、お金が集まらなければ当該事業が始まらないというデメリットも当然あります。
また、出資者に対しどのように還元(償還、返済)するかを決める必要があります。
ソーシャルレンディング
ソーシャルレンディング(Social Lending)とは「借りたい人(borrower:ボロワー)」と「貸したい人(lender:レンダー)を、インターネットのソーシャルメディア上で取り持つ資金調達の手法です。
「マーケット型」「オークション型」「貸付型(ファンド型)」などの種類があります。
ソーシャルレンディングは社会的認知度がまだまだ低く、法整備や取り扱う業者の登録(貸金業や金融商品取引業)などを含め、よくも悪くも今後の進展が待たれるものです。
次にデットファイナンスの企業にとってのメリットとデメリットを3つずつ説明します。
メリット
メリット1. 株価には直接影響しない
メリット2 発言略や経営権には影響しない
メリット3. コストと手間はエクイティファイナンスより少ない
デメリット
デメリット1. 期限までの返済が義務づけられる
デメリット2. 利息を支払う義務がある
デメリット3. 企業の信用度が低下する場合もある
メリット1. 株価には直接影響しない
増資、新株発行ではないので直接的な株価への影響はありません。
ただし、返済が滞るなどで企業のマイナスイメージが拡がれば、株価下落につながる恐れはあります。
メリット2.発言力や経営権には影響しない
エクイティファイナンスと違い、資本とは無関係なので会社における発言力や経営権に影響はありません。
しかし融資の場合では、業績が悪化し返済に窮すると銀行から役職員を送り込まれるなど、いわゆる「銀行管理」になる可能性もあります。
メリット3.コストと手間はエクイティファイナンスより少ない
融資であれば、収入印紙代や保証料(信用保証協会融資の場合)、各種手数料など、もちろん無料で調達はできませんが、それでもエクイティファイナンスに比べればコストは少ない傾向にあります。
ただし、あくまで調達までの話で、利息など期間中のコストが発生しますので、単純に優劣を論じることはできません。
デメリット1. 期限までの返済が義務づけられる
デメリットの項では特徴と関連付け、もう少し詳しく説明をします。
期限までの返済が義務となります。
「借りたら返す」
言葉にするのは簡単ですが、返済期限が設定されることで、事業活動に制約を受ける場合もあります。
また期限内に返済できなければ、融資なら「不良債権」、社債などでは「デフォルト」となり、企業は破綻してしまいます。
デメリット2. 利息を支払う義務がある
利息支払も企業の負担になることは間違いありません。
また、期限に返済できない場合や、毎月返済が滞ったときは「遅延損害金」「延滞利息」といって通常の金利より高額な利息を支払わなくてはいけません。
しかし、これも逆にいえば決められた利息さえ払っていれば、それ以上の出費は不要ということになります。
エクイティファイナンスの増資のように、配当などの還元と比較すれば、一概に負担が大きいとも言い切れません。
デメリット3. 企業の信用度が低下する場合もある
デットファイナンスは、原則として事細かく公表されるものではありません。
しかし、会社が大きくなりく決算をオープンにする義務を負った場合では「当社はこんなに借金があります」と宣言することにもなります。ある意味、これは覚悟が必要となります。
ここまで説明してきたように、エクイティファイナンスとデットファイナンスには、それぞれ特徴とメリットデメリットがあります。
それらをしっかりと理解し、自社にあった方法、自社にあったタイミングで活用して下さい。
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銀行員
加藤隆一
勤続30年の現役銀行員。事業資金調達の相談、個人住宅ローンやカードローンなど借入全般の相談、返済が困難な方からの相談にも対応してきました。銀行員として、数多くのお客様と向き合い、お金にまつわるさまざまな相談に応えてきたことが自慢です。読者のために役に立つ文章を書いていきたいと思っています。