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新型コロナウイルス感染症の流行拡大に伴い、リモートワーク・在宅ワークが一気に広まりました。それに伴い、大都市圏に住まずとも仕事ができることに気づき、地方移住を考える人もいらっしゃるのでは。ですが、金銭面で考えたとき地方移住は本当に「お得」なのでしょうか。東京と長野で二拠点生活をするライター・伊藤将人さんの、実体験を踏まえた意見です。
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コロナ禍で大都市のリスクが顕在化したことで、改めて注目を集める地方移住。メディアで取り上げられる地方移住の多くは、自分がやりたいことを実現するためのものというカラーが強いです。しかし近年、資産維持の手段としての地方移住が注目されています。
2019年6月公表の金融庁の資料で明らかになった老後資金2,000万円問題は、資産維持のための地方移住に現実味を持たせました。このニュースを境に「地方移住で資産維持」という言説が広まってきましたが、果たしてそれは本当に可能なのでしょうか。
東京都と長野県の二拠点生活をしながら地方移住について研究する筆者が、実体験と各種統計をもとに、地方移住で資産維持の可能性を解説していきます。
地方と都市でかかる生活費には一体どの程度差があるのでしょうか。
日本FP協会がまとめた地方と都心でかかる生活費の差の統計によると、項目によって差の大小があることがわかります。
住まいについては、比較しやすいように民間賃貸住宅の家賃(3.3㎡)でみていきます。筆者が暮らす長野県の平均賃料は1ヶ月で約3万5,000円~4万円です。
対して東京都では約8万円~9万円かかります。数年間の居住であれば差はそこまで開きませんが、10年20年と長年暮らせば暮らすほど大きな差になっていきます。
続いて生活費です。総務省家計調査結果によると、長野県と東京23区では長野のほうが極端に生活費が安くなるわけではないことがわかっています。
東京は地方と比べて手取り収入の平均が高いため、収入に占める支出の割合で考えるとそこまで差がないのです。
しかし食費や税・社会保険は地方のほうが安くなる傾向があり、家族で移住する場合は毎月数万円は地方のほうが安いです。よってもしも収入が変らないまま地方に移住できるとしたら、収入に占める支出の割合は減ることになるでしょう。
地方に移住すると変わる可能性が高いものとして、保険料や固定資産税があります。
国民健康保険料は地域によって大きく異なります。家族構成や年収にもよりますが、都市部の高い地域と地方の安い地域では年間で数万円~数十万円以上の差になることも。働き方や雇用形態により違いはあるので一概にこうだとは言えませんが、長年払い続けることを考えると見逃せない支出です。
マイホームを購入したい人にとっては固定資産税も重要です。内閣府が公開する地域経済分析システムRESASの地方財政マップの、一人当たりの固定資産税(2016年度)統計によると、固定資産税が最も高い東京都と最も安い長崎県では2.3倍も差があります。地方のほうが平均して土地の価格も安く固定資産税も安いため、短期的にみても長期的にみても支出を抑えることは資産維持に大きく関わります。
ただ、一口に地方と言ってもその在り方は様々です。県庁所在地と山間集落が大半を占める自治体では状況は異なります。
また、いくら支出が安いといっても不便を強いられるようでは意味がありません。金銭面と生活環境、両方バランスよくみていくことが地方移住で成功するコツです。
都市と地方を比べて、地方のほうがお得な面をここまでみてきました。しかし中には地方のほうが出費がかさむものもあります。長野県に暮らす筆者が特に実感するのが光熱費です。長野県は東京と比べて夏と冬の寒暖差が激しいため、特に冬場は光熱費が予想以上にかかります。
ガスに関しては都市ガスよりも地方でよくあるプロパンガスのほうが月額500円ほど高い傾向にあるため、ガスがメインの生活を送る場合は出費がかさみます。
また電気代に関しては、東京電力が比較的安いこと、都市部では電力自由化が進んでいることが理由で都市のほうが安い傾向にあります。筆者の経験では月々1,000円程度の差があるので、長期的な視点でみるとこれも無視できない差です。
意外と見逃されがちなのが車にかかるお金と引っ越し代金です。地方暮らしでは基本的に車が必須です。都市で生活しているとき車を持っていなかった人は、車の購入費が最初に数十万~数百万円、その後維持費が毎年10万円以上かかります。また最初の引っ越し代金は数十万円の出費は覚悟しなければならないでしょう。
資産維持のための地方移住を考える際に重要なのは、「働いている期間」と「歳を重ねてからの期間」では出費項目が異なるということです。歳を重ねると若いときは予想していなかった医療費や介護費などがかかってきます。
若いときに生活しやすいと感じて選んだ地方自治体でも、歳を重ねたら医療体制が都市部と比べてとても脆弱だと気がついたというケースはよくあります。一方、社会福祉協議会との心理的距離感が近く人と人の付き合いができるということで、都市よりも介護支援が充実している地方自治体も多くあります。
最近ではサービス付き高齢者向け住宅やCCRC(高齢者が健康なうちに入居し、終身で過ごすことが可能な生活共同体)などの選択肢も増えてきています。
移住というと一生に1度か2度という印象がありますが、ライフステージに合わせて複数回移住することも念頭においてみてもいいかもしれない。そうすることでライフステージごとに最適な生活環境を実現しつつ出費を抑える理想的な資産維持のための地方移住ができるのではないでしょうか。
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