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隆範

彫刻の意思を感じる、ラ・クンジュンタ―彫刻の家―

クラウドリアルティでは、京町家をリノベーションするプロジェクトなどを提供していることもあり、ユーザーにも建築好きが多いのが特徴です。そうしたユーザー向けに、世界一周建築旅から今春帰国した現役大学生ライター・隆範さんに、各地で出合った印象深い建築と、旅を通して見えてきたものについてご寄稿いただきました。

第二回の今回は、スイス南部の「ラ・クンジュンタ」を取り上げます。

物語の舞台はスイスの葡萄畑

僕たちの旅は、街を渡り歩く中で綴られる物語です。自らの足で訪れた土地で出逢う、未知の存在に心湧き立つことでしょう。

今回紹介する建築は、スイスの葡萄畑に建つ小さな美術館「ラ・クンジュンタ」。そして、僕たちが勇者となって進む冒険物語です。

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この建築がたつのはスイス南部にある村、ジョルニコ。チューリッヒからオーストリアを掠めるように時計回りに迂回しながら訪れました。イタリアのミラノから北上する方法もありますが、いずれにしても、この辺境の地に訪れるには相応の信念が必要でしょう。

ラ・クンジュンタ 彫刻の家へ行く

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日本では“彫刻の家”と訳されることも多い「ラ・クンジュンタ」は建築家ピーター・マークリが設計し、その友人である彫刻家ハンス・ヨーゼフソン(Hans Josephsohn)の作品のみが置かれた美術館です。

その入り口は常に施錠されており、必ずある手順を踏まなければ入ることができないようになっています。まずはその手順からご紹介しましょう。

スイスの田舎町へとローカルバスで辿り着いたら、この町でひっそりと営むバーを探さなければなりません。

バックパックを背負いながら、やけにバネの強いドアを引いて入ると、少々無愛想なマスターに話しかけられました。

「アレを見に来たんだろう」

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マスターがカウンター下から取り出した、年季が入って閉じも開きもしきらないぶかぶかのノートに名前を書くと、奥から美術館のドアを開ける為の鍵を持ってきてくれます。

バーから歩いて十分ほど。石橋を渡り、緩やかな坂を下っていくと、遂にその建築へとたどり着きました。

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「彫刻たちの暮らす家」での体験

まるでRPGのような体験ですが、この冒険はここからです。

手にした鍵を使い、閉ざされていたドアを開けます。すると、薄暗い空間に目が慣れないまま視線が真っ直ぐ抜け、奥の空間が明るく見えてきます。

足掛けを踏んで中に入ってドアを閉じると、打ち放したコンクリートの壁で囲まれ、電気も機械設備もない無音の空間に、たったひとり、僕だけが呼吸をしています。

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自分の肺の膨らむ音さえも反響して聞こえてきそうな静寂の中、ゆっくりと、踵から爪先まで身体の重さを移しながら歩き始めます。

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大きな三室と、奥に小さな三室の空間に、三十作程の彫刻が置かれています。

しかし、ここを美術館と呼ぶにはあまりにも純粋で、キャプションや解説などはなく、照明もないので雲がかかれば室内はスーッと陰ります。美術館でおなじみの受付やチケットは、言ってしまえばあのバーの無愛想なマスターとポケットに入った鍵なのでしょう。白く塗った壁ではなく、ゴツゴツとしたコンクリートが背景です。

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それは倉庫のような建ち方をしているけれど、今まで訪れたどの美術館よりも彫刻が主役であって、これまで得てきた言葉では表せない建築の在り方です。

僕は建築というものがなんなのか、改めて自らに問う必要がありました。

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建築(Architecture)の語源は諸説ありますが、一説には古代ギリシャ語のarkhēとtechnéにあるとされています。

アルケー・テクネーからアーキテクチャーへ。

アルケーは“万物の根源”、テクネーは“美しき技術”を意味しています。ここからもわかるように、建築という言葉は建てられた物体のことを指すのではなく、根源的な現象のつくり方を指すものではないでしょうか。

建築家のもつ力というのは、物事の根源を探り、実現する方法を探るように“何か意志を汲み取ること”にあるのだと僕は思います。

「ラ・クンジュンタ」は一体どのような意志を汲み取っているのでしょうか。

二つ目の部屋を慎重に歩いていると、その先の部屋にチラリと黒い影が見え、「誰かがいる」と瞬間的に感じ、息をひそめることになりました。

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それが彫刻であったことに気づかされたとき、この場に置かれた彫刻たちに突然、命が宿ったのです。RPGの世界で石像が動くことがありますが、突如として、私はこの場から疎外されているように感じてしまいました。

それは彫刻が、土地の上に空間をもって暮らしているように感じたからです。この建築は人の為につくられているというよりも、彫刻たちの暮らす家だったのです。

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人が彫刻を見たいという意志だけでなく、彫刻が土地に根ざしたいという意志をも建築家は汲み取ったのではないでしょうか。

無意識に他人の家に上がりこんでいた私は、最後は後退りするようにこの建築から出て、鍵をかけました。

次世代の生態系の可能性

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いつか人類が滅亡したとしても、きっとこの建築には永久に彫刻が住み続けていることでしょう。

僕たちがいつも生活している街は、人間の為に最適化しようとしている気がします。古くなったものは壊され、新しくて便利なものが作られて、暮らしは日々変わり続けています。しかし、そんな街にどこか不安を覚え、寂しさを感じる理由を、ラ・クンジュンタが教えてくれました。

僕たちは街を人間の為だけの建物で埋めるのではなく、雨や風、太陽、植物、生物など、様々な意志の中に人間が入り込むような、次世代の生態系をつくっていくべきではないでしょうか。

人がそこに居なくなったとしても美しいと感じる建築を街に溢れさせたとき、僕たちはやっと安心して地球に住めるのだと思います。

語源を辿れば、建築は物体を指す言葉ではなく、根源的な現象の作り方を指しました。だから僕は「人類を含めた地球の意志を汲み取る者」こそ建築家と呼びたいのです。

さて、次の街で見る意志は、どんな発見をさせてくれるのか。冒険は続いていきます。

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Profile


隆範(りゅうはん)

1998年愛知県生まれ。18歳で僧侶となり、建築学に打ち込む。茶道と建築を合わせたワークショップ『アーキテク茶会』や、プログラミングを使った禅と映像のインスタレーション『上善若水』、キビタキとシジュウカラの為の『100の巣箱』など、建築の可能性を探求した幅広い制作を行う。日本建築学会主催『建築学生サミット2018秋』や、中部地方最大の建築学生団体『NAGOYA Archi Fes2019』を主導し、現在は地方都市のまちづくりを提案するチーム『まにまに』を率いている。


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