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今回のテーマは、実物不動産投資(以下、不動産投資)に欠かせない「不動産担保評価」。不動産担保評価とは、金融機関が住宅ローンなどの融資の際に担保として設定する不動産の評価のことです。
この評価のプロセスについて、現役銀行員が解説します。
2018年、女性専用シェアハウス「かぼちゃの馬車」を運営する株式会社スマートデイズが経営破綻しました。
これに関連して近頃、「かぼちゃの馬車不正融資事件が解決に向け前進」というニュースが舞い込んできました。銀行が不正融資の非を認め、オーナーは物件を差し出せば借金が帳消しになるというものです。
事件では、担保評価での偽装が問題になりました。銀行が業者と結託し、担保評価額をつり上げる偽装をしていたのです。
融資を受けられるか、いくらまで受けられるかには、担保の評価が大きく影響します。
もちろん融資は担保がすべてではなく返済能力、特に不動産投資では家賃収入が非常に重要ですが、それと同じくらい担保も大事なのです。
融資審査で何を重視するかは銀行によっても違いますが、報道によると、不正融資のあった時点のスルガ銀行では、「担保評価が〇億円なら融資は〇千万円まで」「〇億円融資を受けたいなら担保評価は最低このくらいが必要」といった銀行のボーダーラインとも言うべき重要事項が業者に筒抜けだったようです。
これでは「1億円の融資に必要な担保評価はこれくらいだから、売買価格をそれにあわせよう」と考えることもでき、実際に業者が意図的に動いていた事例もありました。
今回は、不動産投資をするなら気になる不動産担保評価において、「現地調査では、どこに注目して調べるのか」「どのようなプロセスで担保の評価額を決めるのか」といった点を、現役銀行員が解説します。
銀行の不動産担保評価は大きく2つのプロセスに分かれます。1つ目は「調査」、そして2つ目は「評価」です。調査も「現地調査」「法的調査」「相場調査」の3つに分かれます。
個人情報の観点から、現地調査には所有者の承諾が必須になります。許可を得ないで調査すると、不法侵入などトラブルにもなりかねません。
では、許可を得るのが手間だから公道など敷地の外から現地調査をすることもあるかというと、そんなことはありません。物件は遠くからでは何もわからないからです。
現地で調査するポイントはいくつもあり、内部事情になるので詳しくは申し上げられませんが一般的に、
①利便性
駅やバス停などからの距離は、実際に調査員が歩いて確かめます。ちなみに徒歩1分=80メートル(不動産での一般的な表示)で換算しています。
②日照、騒音
必要に応じ、晴れの日・雨の日と分けて訪問。あるいは時間帯を変えて騒音を調査する場合もあります。
③鉄道・大型道路が近い場合
騒音や振動を調査するため電車が通過するまで待つこともあります。
④地盤の強弱など
地盤の強弱なら現地に調査員(銀行員、または銀行グループ社員など)が赴いて、自らの足で地面を踏みしめて(実踏)調べます。人間の足で調べるので科学的とは言えませんが、逆に足で踏みしめてズブズブと沈むような土地なら相当問題があるとも言えます。実際、私が調査したなかではそのような土地もありました。
先述のかぼちゃの馬車における不正融資で入居を偽装したのも、この現地調査でのことです。
すでに稼働しているアパートへの不動産投資では、家賃収入の裏付けとして入居率を現地で調査します。
具体的には、「アパートに入居者がいるか」を調べるもので、スルガ銀行の場合は部屋にカーテンがあることで入居者がいると判断していました。
なお、新築アパートの場合は提出された家賃、入居率予想などを多角的に判断します。
この場合も、比較材料として近隣で稼働中のアパートを現地調査して、資料の予想数値を精査することがあります。
前出の不正融資事件では、スルガの行員が「〇月〇日カーテンよろしく」と現地調査の日時を業者に漏らし、調査当日、実際は空室の部屋に業者がカーテンを取り付け入居率の偽装を行っていたといいます。
銀行員の私からすると、ハッキリ言って幼稚な手口で、本当にこの通りだったのか疑問が残ります。現地調査をする人間は銀行員ならベテラン、銀行グループ社員でも元銀行員のやはりその道のプロが従事するのが普通なので、見抜けなかったのか、あるいは全員がグルだったのでは、とまで思ってしまいます。
ちなみに、私の勤務する銀行では別の方法で入居調査しますが、悪用されるので絶対に教えられません。業界の集まりで他行員と話したとき、絶対に他言できないと意見が一致しましたので、やはりどの銀行も同様に極秘事項だと思います。
法的調査とは、建築基準法など各種法律に適合しているかを調査することです。
具体例としては、物件は道路につながっているかといった点について調べます。
ここで言う「道路」とは建築基準法上で道路と認められている、原則幅4メートル以上の道を指します。種類もいくつかあり、主な3つをあげます。
①いわゆる公道は、建築基準法第42条第1項で規定されており、別名「42条1項道路」と呼ばれています。
②建築基準法が施行される前から、道路として利用されていた場合は幅4メートル未満でも建物が建築できます(こちらは「42条2項道路」といいます)。
③所有者が個人でも(私道)でも、役所から道路位置指定を受けた私道は「位置指定道路」と呼ばれ、建築基準法上の道路として建物が建築できます(「42条第1項第5号道路」とも呼ばれます)。
現地調査をするときは、自動車で担保物件までたどり着けるかをまず確認します。なぜなら、クルマが乗り入れることができないなら、➀~③に挙げたような「道路」につながっていないことが一目瞭然だからです。
これは地方などにあるケースなのですが、実際に自動車でたどり着くことはできたけれど、「➀~③に挙げたような道路だと思っていたら道路じゃなかった」ということがあります。近隣住民が昔から道として使っていたが、じつは純粋な個人所有地で、あくまで慣習として使用していたというケース。
こういった事例は現地に行っただけでは判断できないので、法務局や役所での調査が欠かせないのです。
また建築基準法だけでなく、さまざまな法律で禁止事項や制限がありますので、法的調査も重要です。
たとえば、古くからある町並みを保護するために建物建築に制限がある「景観法」、自然保護の観点で指定された地区での建築に制限がある「自然公園法」などがあります。
一般的に制限が多い物件ほど担保評価は低くなります。これは使い勝手が悪い商品は売れにくいということです。
なお、不動産の売買では上記したような法的制限について「重要事項説明書」で説明されていますが、往々にして不当な表示や、意図的では無くても事実と異なる場合もあります。
そこで銀行は重要事項説明書を鵜呑みにせず、必ず自社で調査・確認をします。
最後は相場調査で、これは対象物件の一般相場を調べることです。銀行の担保評価は独自の基準で決定されますが、近隣の相場も重要です。
「相場に比べて高いのか?それとも安いのか?」は物件を売るという観点で外せません。
具体的には公表されている「路線価」や「基準地価」を参考にしますが、基準とした土地と物件では遠く離れている場合などは、近くで最近売買された事例を参考にします。
また必要に応じて、不動産鑑定士などの専門家に意見をもとめる場合もあります。
現地調査などの各種調査を経て、導き出された要素を加味し、その銀行独自の数式や加減要素を用いて、担保評価額を算出します。
必ずしも担保評価がすべてではありませんが、不動産投資のローンでは担保評価が融資額、そして融資の可否判断をするうえで非常に重要になります。
土地と建物を、それぞれの根拠で評価して価値を計算する方法です。
計算式は、①土地評価額+②建物評価額=③積算価格です。
③の積算価格を原則として担保評価額とします。積算価格という言葉から「積算法」とも呼ばれますが、家賃を試算する「積算法」とは違います。
収益還元法とは、アパートなどの不動産投資で「予想される将来の利益から不動産の価値を測定する方法」です。
収益還元法はさらに「直接還元法」と「DCF法」の2つにわかれます。
直接還元法とは、対象物件の「収益価格(収益に基づく価値)」を算定する方法です。
一定期間(通常は1年間)の収益を還元利回りで割り、収益価格を求めます。
算出された収益価格と実際の売買価格を比較して、購入の判断材料にします。
直接還元法で使われる「還元利回り」とは「経費差引後の年間家賃収益÷物件の価格」で計算します。
これは購入した物件が生み出す家賃収益はどのくらいか(%で表示)を、収益を生み出すための必要経費まで考慮して計算するものです。
銀行預金で例えれば「利息は何%か」という問いは受け取る利息だけの表現、一方「利回りは何%か」となると受取利息から経費である預金利子税(不動産投資なら経費にあたる)を差し引いた実質的な受取額です。
還元利回りとは表面的な家賃収入だけでなく、税金など実際に支払う(これをキャッシュアウトすると言います)経費を差し引いて、実質的に手にできる収益を計算するものです。
では、直接還元法を計算式で算出して見ましょう。
例:年間家賃収益が140万円、必要経費20万円、物件価格は1億円の場合
(家賃140万円ー経費20万円)÷1億円=還元利回り1.2%
この物件の還元利回りは1.2%ということになります。
DCF法とは保有している期間中の利益と、売却した場合の予想価格から購入しようとする物件価格を検討する方法です。内容が複雑になので数式などは省きますが、直接還元法より予測の精度を高めた方法です。
スルガ銀行では担保評価で収益還元法の要素を取り入れていたため、不正融資では数値を左右する「レントロール」という用語も登場しましたので、こちらについても説明します。
レントロールとは、日本語にすると「家賃表」といったところです。
物件の賃貸状況が一覧でわかる表で、部屋ごとに家賃や共益費、敷金、契約日、契約期間、賃借人の属性などが記載されています。
レントロールを確認すれば、「全8室のアパートで、何室入居中で空室はいくつか」「何号室に、一月いくらでどんな人が入居しているのか」などがわかります。
レントロールは、物件概要書と一緒に不動産業者から購入希望者に提供されます。
しかしながら、物件を良く見せて売ろうという意図から、レントロールには信ぴょう性が低いものも多いのが現実です。
不正融資問題でも、レントロールだけでなく売買契約書、工事請負契約書など担保評価額に大きく影響する資料が「より確実に、より多く融資を引き出すために」偽装・改ざんされました。しかも銀行員が積極的に指示・関与したり、なかにはあろうことか銀行員自身が改ざんしたりした事例もありました。
私の勤務する銀行でレントロールや収益還元法を評価に用いているかは言えませんが、不正融資問題のあと、銀行の各種資料に対するチェックが厳しくなったことは確かです。
銀行は原則的に債務者が破綻して担保を競売した場合を想定し「売れるか」という観点で担保評価をします。したがって世間一般の評価より低くなるのです。
そもそも一般の相場は、業者の利益が加味されているので実際の価値より高く設定されています。
このような理由から、銀行の担保評価は良質な土地でも路線価と同額が上限で、建物は売買価格より大幅に低くなるのが普通です。
興味がある人は、月曜日などの朝刊で「競売物件」「競売広告」などを見てください。そこには税金滞納で差し押さえられた物件や、銀行が担保処分して競売する物件が載っているかも知れません。それらは相場の1割、2割など大変低い価格になっているはずです。銀行の担保評価額は、今その広告に載っている物件を競売する何年も前から予想して評価したもので、そこに載っている価格と担保評価額はそれほどかけ離れていないかもしれません。
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銀行員
加藤隆一
勤続30年の現役銀行員。事業資金調達の相談、個人住宅ローンやカードローンなど借入全般の相談、返済が困難な方からの相談にも対応してきました。銀行員として、数多くのお客様と向き合い、お金にまつわるさまざまな相談に応えてきたことが自慢です。読者のために役に立つ文章を書いていきたいと思っています。