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手軽な不動産投資として活用されているJ-REIT。J-REITへの投資を検討する上で気になるのが、市場の動向です。現在J-REITへの注目の高まりと共に、市場規模も拡大しています。
今回は、日本国内、そして海外のREIT市場について、自身もJ-REITに投資している金融ライター・山下耕太郎さんにご解説いただきました。
J-REITは2001年に2銘柄、時価総額2,500億円でスタートしました。2020年2月時点では64銘柄が上場し、時価総額は17兆円まで拡大しています。
J-REITの市場規模は東証1部の不動産株の時価総額に匹敵し、日本では一定規模を実現したといえます。しかし、REIT発祥の地である米国と比較してみると、時価総額は米国REITの10%程度に過ぎません。
日本のGDPは米国の25%程度であることを考えると、まだまだ成長余地はあると考えられます。
当初3,200億円程度からスタートしたJ-REITの保有不動産は、2019年12月末現在で約19兆円、保有資産数は4,000件を超えています。不動産の種類も、最初はオフィスビルが大部分を占めていましたが、住宅・商業施設・物流施設・ホテル・ヘルスケア施設など用途も多様化しています。用途別の比率は、以下の通りです。
それぞれの用途の特徴を見ていきましょう。
オフィスREITの投資物件は、東京・名古屋・大阪・札幌・福岡など都心部が中心。とくに、都心主要5区(千代田区・中央区・港区・新宿区・渋谷区)が3分の1を占めています。
2018年に東京のオフィス供給が過剰になることが懸念されていましたが、実際の空室率は2%未満となり、杞憂であることがわかりました。
オフィスビル仲介大手の三鬼商事が発表した2019年12月の都心5区の空室率は、前月から0.01ポイント低い1.55%。底堅いオフィス需要を受け、4カ月連続で過去最低を更新しました。2018年後半からオフィス市況の好調は続いており、REIT市場を押し上げる要因になりました。
都市型の商業施設は景気動向に影響を受けやすい傾向にあります。2019年10月に消費税増税が行われ、物販や飲食店などのテナントが多い商業施設REITにはマイナスの影響を及ぼすことが懸念されています。また、近年は人手不足による人件費の高騰も、テナントの大きな負担になっています。
商業施設REITに投資する時は、契約期間中に中途解約条項があるかも確認してください。長期の賃貸契約であっても、中途解約条項があると契約満了せずに解約されてしまう場合があるからです。理想的な商業施設の条件は、中途解約条件なしで10~15年の契約をしていることです。
住宅REITは景気変動の影響を受けにくいので、常に一定の需要があり、賃料は比較的安定しているのが特徴ですが、地域構成は確認しておいた方がいいでしょう。住宅REITの投資エリアは、東京・大阪・名古屋の3大都市が中心。なお、大阪や名古屋は供給量が増えているので、入居者を確保するのが難しくなっています。
こうしたことから、東京都心の割合が高い住宅REITの方が、優良である可能性は高いと考えられます。
物流施設をオフィスや住宅と比較すると、開発費が安価な場合が多く、維持管理費も少なくすむ傾向があります。物流施設の建築数はリーマンショック時に落ち込みましたが、最近は増加傾向にあり、施設の大型化や多機能化が進んでいます。
物流REITも景気変動に影響を受けにくく、比較的賃料は安定しています。
ホテルは景気の影響を受けやすい投資先です。また、J-REITの中でも変動賃料の割合が高いという特徴があります。変動賃料とは、入居しているテナントの業績に応じて賃料が変わる賃貸借契約。変動賃料の割合によって、ホテルREITの収益の安定性は変わります。
ホテルREITには、インバウンド需要の高まりにより、外国人観光客に比重を置いたホテルが含まれている場合もあります。このような銘柄は、外国人観光客が少なくなるとホテルの稼働率が下がり、分配金の減少につながる恐れがあるので注意が必要です。
ヘルスケアREITの投資対象は、高齢者向けのシニア住宅が中心。将来性や社会的ニーズから市場の成長性が期待されています。しかし、介護職には3K(きつい、きたない、きけん)というネガティブイメージもあり、人材採用を難しくしています。介護士の圧倒的不足から、新しい物件の取得が難しい側面もあるのです。
ですから、今後はシニア住宅だけでなく、病院やリハビリテーションなどの銘柄が期待されています。
これまで、日本のREITであるJ-REITについて解説してきました。ただ、REITは米国で初めて導入され、世界各国に普及しています。
J-REITは法令により賃貸事業しか行えませんが、海外REITではそういった規制が少なく、比較的リスクが高い物件の開発をするREITもあります。2018年3月末時点の国・地域別REITの時価総額は、以下の通りです(単位:億円)。
時価総額 | 銘柄数 | ||
1 | アメリカ | 1,124,778 | 226 |
2 | 日本 | 119,469 | 60 |
3 | オーストラリア | 103,252 | 49 |
4 | フランス | 91,857 | 28 |
5 | イギリス | 88,868 | 62 |
6 | シンガポール | 69,833 | 40 |
7 | カナダ | 54,518 | 41 |
8 | 香港 | 32,068 | 9 |
9 | 南アフリカ | 27,507 | 30 |
10 | スペイン | 26,542 | 54 |
出典:不動産証券化協会
REITは1960年に米国で初めて導入されました。2018年3月末時点の時価総額は、日本の10倍の規模を誇ります。リーマンショック直後の2008年末の市場規模は約1,762億ドルだったので、その後6倍の規模に成長したことになります。
ただ、米国REIT市場の成長は、人口やオフィスワーカーの増加というよりも、REIT市場の構造変化であった可能性が高いです。とくに、以下の要因が大きかったと考えられます。
日本ではオフィスリートが40%強を占めますが、米国ではわずか8%。またリテール(商業・小売り)REITは13%、レジデンシャル(賃貸住宅)も15%を占めるに過ぎません。
近年、大きく伸びているのは、ホテルやヘルスケアのREITなのです。日本ではホテル(8.3%)、ヘルスケア(0.9%)とマイナーな存在ですが、米国ではREIT市場の牽引役となっています。
ホテルREITは2000年以降に注目されるようになりましたが、とくに拡大したのがシニア住宅や介護施設などを有するヘルスケアREITです。米国でも高齢化は進み、それがREIT市場では成長の原動力となっているのです。
米国には日本のように投資主体別の保有状況を示す統計はありませんが、残高が20兆ドルを超えているミューチュアルファンド(投資信託)は、REIT最大の投資家と考えられます。
また、米国だけでなく日本や欧州の投資信託・機関投資家も、米国REITを重要な投資対象にしています。株式や債券との分散効果が高く、市場の流動性が高い米国REITは、世界中の投資家から資金を集めているのです。
海外REITの中で、日本の投資家が米国REITに次いでアクセスしやすいのが、豪州や欧州、香港のREITです。豪州は安定した経済成長や人口増加により、REIT市場は底堅く推移しています。
ただ、欧州最大のREIT市場である英国では、ブレグジット(EU離脱)を巡る動向が不動産市場に与える影響が懸念材料です。香港市場は、中国本土系企業からのオフィス需要は減退していますが、「香港・広東・マカオ」大湾区計画による不動産需要の拡大が期待されています。
今回はREIT市場の規模について解説しました。2020年2月時点の日本のREIT市場(J-REIT)では、64銘柄が上場して時価総額は17兆円を超えるまで成長しています。
しかし、米国REITの10%程度の時価総額に過ぎません。GDP比で考えるとまだ発展する余地が十分ありそうです。
ただ、高齢化による需要が見込まれるヘルスケアREITなど、現在主流でない分野での成長が必要でしょう。
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金融・投資ライター
山下耕太郎
一橋大学経済学部卒業後、証券会社でマーケットアナリスト・先物ディーラーを経て個人投資家・金融ライターに転身。投資歴20年以上。現在は現物株・先物・FX・CFDなど幅広い商品で運用を行う。ツイッター@yanta2011