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実物不動産以外の不動産投資の代表格であるJ-REIT。過去10年でみても、その分配金利回りは株式配当利回りや10年国債利回りよりも高くなっています。なぜ、J-REITの利回りは高いのか。そんなJ-REITへの投資に際して注意すべきこととは。自身もJ-REITに投資している不動産ライター・山下耕太郎さんの解説です。
【参考記事】不動産版投資信託「J-REIT」とは?メリット・デメリットを解説J-REITは、株式会社が株式を発行するように、投資法人がJ-REITの投資口(投資証券と呼ばれる有価証券)を発行して投資家から資金を集めます。そして、投資法人を通じて不動産投資と運用を行うのです。
ただし、投資法人は名目上の会社(ペーパーカンパニー)で、実際の不動産の運用や管理は外部に委託します。投資家は、投資口を購入することで間接的に不動産に投資でき、投資法人から分配金を受け取れるのです。
J-REITの分配金利回りの計算式は、以下の通りです。
分配金利回り(%)=年間の予想分配金÷投資金額✕100
たとえば、年間の予想分配金が2,500円で、1口当たりの投資額が5万円の場合、
分配金利回り=2,500円÷5万円✕100=5%
分配金利回りは5%になります。
以下の図は、J-REITの平均予想分配金利回り、10年債国債利回り(長期金利)、東証1部株式配当利回り、J-REIT分配金利回りと長期金利の差(スプレッド)の過去10年間の推移を示しています。
2019年12月時点の値は、以下の通りです。
J-REIT平均予想分配金利回り | 3.6% |
東証1部株式配当利回り | 2.22% |
10年国債利回り | -0.03% |
過去10年でみても、J-REITの分配金利回りが株式配当利回りや10年国債利回りよりも高いことがわかります。
J-REITの利回りは、国債や株など他の金融商品に比べて高いといわれます。一般的に利回りは投資口価格の値動き(キャピタルゲイン・キャピタルロス)や配当・投資期間で計算されますが、ここではJ-REITの分配金利回りが高い理由について解説します。
J-REITは当期利益の90%超を投資家を分配することなどを条件に法人税が免除されるため、株式の配当金利回りなどに比べても分配金利回りが高くなります。
通常の会社では、税金を支払ったあとに配当金が支払われるのに対し、J-REITでは税金がかからず全額を分配金に回すことができるので、利回りが高くなっているのです。
ただし、物件の売却益が分配金に含まれている場合もあります。売却益は毎回あるわけではないので、一時的に分配金が増えている(増配)状態です。一時的な増配でも、価格が変わらなければ利回りは上昇します。
急に利回りが上がっている銘柄は、売却益が分配金に含まれている可能性があるので注意が必要です。売却益に惑わされないためには、過去の分配金推移を確認しましょう。売却益があるかどうかにかかわらず、安定的に高い分配金をだしている銘柄なら安心です。
J-REIT保有不動産の用途別比率で一番多いのは「オフィス(41.6%)」で、所在地は東京23区が半数近くを占めています。
不動産市況の改善が続いていることから、都心のオフィス物件の賃料収入は増加しています。
オフィスの供給量は増えていますが、オフィスビル空室率の低下などを背景に賃料は上昇傾向にあるからです。オフィスビル仲介大手の三鬼商事が発表した都心5区(千代田・中央・港・新宿・渋谷)の2019年12月の空室率は、前月から0.01ポイント低下の1.55%となりました。底堅いオフィス需要を受け、4カ月連続で過去最低を更新しました。
また、募集賃料は3.3平方メートルあたり2万2206円で140円上昇。2014年1月から72カ月上昇が続き、2008年のリーマンショック前の水準に匹敵しています。
東京の都内だけでなく、大阪など他の大都市のオフィス空室率も低下しています。同じく三鬼商事が発表した2019年12月の大阪中心部のオフィス空室率は1.82%と前月比で0.09%低下。2カ月連続のマイナスで過去最低を更新しました。
同時に賃料も上昇しています。3.3平方メートルあたりの平均賃料は1万1794円と20円上昇。需給が逼迫しているので、契約更新時に賃料を引き上げる動きがでているのです。
ただし、今後もオフィスの大量供給は続きます。不動産サービスのザイマックスの調べでは、2020年に東京23区では過去最高水準の86万平方メートル超が供給される見込みです。依然として需要は高いものの、東京五輪・パラリンピック後の需要減で既存ビルの空室率が上がる可能性があることには注意が必要です。
J-REITは複数の不動産に分散投資できることや、安定した分配金が期待できるというメリットがありますが、以下のようなリスクにも注意しなければいけません。J-REITは元本や利回りが保証された金融商品ではないからです。
J-REITは証券取引所に上場され、取引価格が日々変動します。分配金の主な原資は賃料収入によるものなので、不動産の賃貸市場の影響を受けます。
不動産の賃貸市場や売買市場、経済状況の悪化を受けて、J-REITが保有する物件の賃料収入が減ったり、保有物件の価格が下落したりすることで、価格が変動する可能性があります。
J-REITは、投資家から資金を集めるほか、金融機関からの借り入れを行って資金調達をしている場合があります。金利が上がると、利息を多く支払うことになるため、J-REITの収益を圧迫する可能性があります。
どのくらい借り入れを利用しているかは、「有利子負債比率」を確認します。有利子負債比率が低い方が金利上昇の影響を受けにくくなります。過去の推移を比較し、有利子負債比率を引き下げる傾向にある銘柄の方が、財務状況が安定していると判断できます。
J-REITは証券取引所に上場していますが、上場を維持するための基準(純資産総額、投資口数、売買高など)に満たなくなると上場廃止になります。上場廃止が決定すると、J-REITの基準価額が下がったり、取引が著しく困難になったりする可能性があります。
投資対象の不動産が地震や火災などの被災を受けた場合、修繕やリーフォーム・売却などが必要になります。場合によっては再生不能になる場合もあります。その結果、価格が下落したり、分配金が減少したりするリスクがあります。
J-REITの分配金利回りは3.6%(2019年12月時点)と株式や国債よりも高いのが魅力です。利益の90%超を投資家に分配することで法人税が免除されることや、都市部で賃料が上昇するなど不動産市況が好調なことが原因です。
ただし、J-REITの分配金は保証されているわけではありません。市況悪化などによって下がることもあります。きちんとリスクを把握し、複数の物件に分散投資するなどしてリスクを抑えるようにしましょう。
金融・投資ライター
山下耕太郎
一橋大学経済学部卒業後、証券会社でマーケットアナリスト・先物ディーラーを経て個人投資家・金融ライターに転身。投資歴20年以上。現在は現物株・先物・FX・CFDなど幅広い商品で運用を行う。ツイッター@yanta2011
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