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WealthPark研究所所長 加藤航介

プロップテック(PropTech)が切り開く新しい未来(対談:前編)【WealthPark研究所】

株式会社デジタルベースキャピタル 代表パートナー 桜井駿(さくらい しゅん):みずほ証券株式会社、株式会社NTTデータ経営研究所を経て、株式会社デジタルベースキャピタルを創業。日本初となるPropTech特化型ベンチャーキャピタルを運営し、規制産業領域であるPropTech、Fintechのスタートアップ投資・育成、大手企業向けのデジタル戦略、DXに関するコンサルティングを行う。不動産/建設領域のスタートアップコミュニティ「PropTech JAPAN」の設立、一般社団法人Fintech協会の事務局長、経済産業省 新公共サービス検討会 委員を歴任。主な著書に、「決定版FinTech」(共著、東洋経済新報社)、「知識ゼロからのフィンテック入門」(幻冬舎)、「超図解ブロックチェーン入門」(日本能率協会マネジメントセンター)、「100兆円の巨大市場、激変 プロップテックの衝撃」(日経BP)がある。https://www.digitalbase.co.jp/

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WealthPark研究所 所長 加藤航介(かとう こうすけ)‐ プレジデント/インベストメント・エバンジェリスト:「すべての人に投資の新しい扉をひらく」ための調査・研究・情報発信を行っている。プロフィールはこちら

クラウドリアルティの新しいコミュニティとして、WealthPark研究所より様々な投資情報をお届けいたします。

今回は「プロップテック(PropTech)が切り開く新しい未来」をテーマに、株式会社デジタルベースキャピタル 代表パートナー 桜井駿氏とWealthPark研究所 加藤航介が語ります。(前編)

プロップテックは、エンドユーザーにとっての「プロパティ」を再定義していく

加藤: 本日は「プロップテック(PropTech)が切り開く新しい未来」というテーマで、プロップテックや不動産投資に関する桜井さんのご見解を幅広くお伺いしたいと考えています。議論を始めるにあたり、まず「プロップテックとは何か」からお話できればと。新たなビジネスやサービスが誕生し、ここ数年で力強い発展を遂げているプロップテック業界ですが、不動産業界は様々なビジネスが複雑に入り組んでおり、サービスの立ち上がりに時間がかかる側面もあります。プロップテックの未来を考える上で、プロップテックの定義や、これまでの変遷、そして現在の立ち位置を整理してみたいのですが、桜井さんはどの様に見ていらっしゃいますか。

桜井: プロップテックとは、「プロパティ×テクノロジー」を組み合わせた造語で、端的に言えば、不動産版のフィンテックです。そして、土地や建物といった不動産だけでなく、財産(プロパティ)全体を対象としたテクノロジーによるイノベーションを、より包括的にプロップテックと呼びます。「プロップテック」という言葉が海外で登場し始めたのが、2018年頃。実は、そもそも誰が言い始めた言葉なのかは定かではなく(笑)、最近も私が参加するアメリカのベンチャーキャピタルのコミュニティで話題になっていましたが、結局答えは出ていませんでしたね。ただ、言葉使いとして大事なポイントは、「プロップテック」より前に使われていた「リーテック」(Re Tech)や「リアルエステートテック(Real Estate Tech)」、そしてそれらを日本語にした「不動産テック」と、「プロップテック」は同義ではなく、特に海外では、その2つは異なって捉えられているということです。「リーテック」や「リアルエステートテック」、「不動産テック」が指していたのは、あくまでも不動産会社のデジタル化やイノベーションの支援でした。対して、それらに代わって2018年頃から使われ始めた「プロップテック」は、消費者や利用者といった、エンドユーザーの視点で「プロパティ」を再定義していく流れから生まれてきた言葉なんですよね。

スタートアップや起業家が「プロップテック」に取り組むのは、不動産業界を変革したいからです。変革の先の世の中を変えるインパクトは、既にある「プロパティ」の概念や不動産取引の在り方を、不動産業界ではなくエンドユーザー目線で突き詰め直した方が大きくなりますよね。もちろん、「プロップテック」領域には、不動産会社の役に立ちたいという想いから生まれたビジネスやサービスもあって、それはそれで良いと思います。ただ、不動産会社をサポートする場合でも、不動産会社に主たる焦点を合わせるのではなく、不動産会社の先にいる利用者への視点も併せ持つということが、デジタル化を推進するプレイヤーにとっては大きな意味を成す様になってきた感があります。

加藤: なるほど。「プロップテック」を営む企業のゴールは、不動産業界側からよりエンドユーザに向いてきているということですね。最終的な顧客を捉えるのと、そうでないのとでは、ビジネスモデルやソフトウェアの基本設計も大きく変わってくるのは当然ですね。

桜井: そうです。この点に関しては、国内と海外では大きな隔たりがあって、国内ではまだまだ不動産会社のためのビジネスが多い印象です。不動産会社だけを見ているビジネスと、エンドユーザーまで見ているビジネスでは、当然事業のスケールが変わってくるので、結果的に集まる資金の金額も変わります。これによって次第に国内と海外の産業のサイズが広がっているのが、この3〜4年の状況ですね。

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エンドユーザーを起点にすることは、業界にとってもプラスになります。個人的には、プロップテックって、フィンテックよりも難易度が高いと考えているんです。というのは、プロップテックは、スタートアップでは教科書的に言われる「誰の、どんな問題や課題を解決して、どうやって収益を得るのか」というビジネスモデルを組み立てる際に、「誰の、どんな問題や課題」という特定が極めて難しい。不動産ってステークホルダーがとにかく多いじゃないですか。不動産を挟んで、大家と借り手または投資家、さらには管理会社、仲介会社、家賃保証会社、保険会社が、それぞれ重要な役割を果たしていて、どこを切り取っても必要不可欠な存在なので、結局誰のためにビジネスをするのか?を捉えることが非常に困難ですよね。だからこそ、一番立場が弱く、守るべきものである一般消費者の立場に立って、彼らにとっての理想的な取引や情報の流れを皆が考えることで、大きな変革が可能になっていくのだと思います。

加藤: ベンチャーキャピタリストのプロであり、業界のご意見番である桜井さんから見ても、プロップテック領域はビジネスが解決すべき「社会課題の特定」が難しいと感じられるわけですね。課題を絞れないと起業家も覚悟を決められないし、多様なステークホルダーを巻き込めなければビジネスとして成立しない、ということですよね。

プロップテックのビジネスで大事なのは、「経営チーム」と「お金」

桜井: ベンチャーキャピタルのファンド運営をしている立場から見て、プロップテックのビジネスにおける重要なポイントは、「経営チーム」と「お金」です。その意味では、この2つを既に持っている大企業は優位な立場にいます。大企業は新しい技術をすぐにスタートアップに求めるのではなく、自前で開発する試みも大切だと思っています。逆に、ベンチャー企業が優位性を出すために求められることは、核となる強力な「経営チーム」を組成していくことです。創業者や経営者本人が不動産に精通している必要は必ずしもありませんが、経営チームには不動産、IT、マネジメントといった、それぞれの分野の専門性を持ったプロ達を総合的に揃えることが肝要です。「不動産テック」と呼ばれている企業は日本にも数多く存在しますが、10〜100名規模のスタートアップで経営チームがうまく機能しているところは実は非常に少ないと感じています。持ち上げるわけではないですが、御社WealthParkであったり、estie社であったり、弊社の投資先でもある iYell社であったり、客観的に見てプロと言える経営チームを兼ね備えているスタートアップって、日本では数える程度なんですよね。

加藤: 人材と資金の側面で見ると、実は大企業が参入できるチャンスに恵まれているという視点は、大変面白いと思いました。確かに、大手不動産会社であれば、優秀な人材を集めて専門性を揃えたチームをつくることはできますよね。

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桜井: 経営チームを大きくするのも、サービスを磨き上げていくにも、巨額の資金が必要で、プロップテックないし不動産テックのスタートアップが二桁億円のレベルの資金を調達しているのもその証拠です。同時に、今後は大企業が自己資本でそういった事業を興すなり、合弁会社をつくるといった活動もより増えていくのではと思いますね。これはプロップテックに限らない私の仮説ですが、これからの10年は「ハーフ」や「ミックス」の企業が増えると予想しています。つまり、10年後に残っている企業は、生え抜きのスタートアップと大手のディベロッパーに二分されるのではなく、大手ディベロッパーとスタートアップがつくった会社だったり、大手ディベロッパーと通信会社がつくった会社だったり、様々な合弁会社がスタンダードになるのかなと。

ただ、資源を持った大企業と、技術力を持ったスタートアップによる理想的な連携は、そう簡単にはいかない。様々な人達が一つの組織をつくった時にどこを目指すかというと、やはり共通の目標地点はエンドユーザーなんですよ。消費者や利用者のためになることをやっていく「消費者目線」が合言葉になるんじゃないかなと。

加藤: 10年後、20年後には、とある建設会社の企業価値の8割がテック事業から産まれている。そんな会社が出てきても面白いですね。桜井さんが運営されるベンチャーキャピタルはアーリーステージにある会社に投資をされていらっしゃいますが、大企業への支援も同時に行われているのでしょうか。

桜井: はい。今はそういったニーズも大きく、それに対応できる人員を増やしているところです。ただ、我々のやりたいことは、ベンチャーキャピタルやコンサルティングというよりも、ダイナミックな産業変革なんです。その主役がチャレンジャーな起業家やスタートアップの方が、ストーリーとしては美しいかもしれませんが、エンドユーザーから見れば、サービスさえ良ければ提供側がスタートアップでも大手企業でも関係ない。大企業が新規事業の一定の仮説検証を経て、合弁会社をつくりたいというタイミングでのご相談も多く、そうした合弁会社に参画出資するのも面白いと考えています。ベンチャーキャピタルを2年運営してみた上での持論ですが、今後はベンチャーキャピタルも企業も、産業や規模ではなく、時代に合わせた消費者ニーズに揃えられるのが本筋になってくると思います。

加藤: もし大企業がプロップテックを牽引していくということになれば、それは日本独自の展開ですね。日本のオリジナリティを踏まえて、明るい未来が見えてくることを期待します。

(中編へ続く)

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